第1話 ◇大きな背中◇


レヴォントゥ暦1956年。

この国は内乱の末900年ほど前に国王一族がグスターヴとして1つの国に統一した。

以来この国は平和で、各都市との交流を図りながら秩序を保っていた。




_______はずだった。





首都アヴァインの南に位置するエテラ地区。

この街で農業をする者、工業を営む者。

自営で生活をする者。

この街の土台を担う人々が、このエテラ地区で生活をしている。




その一角、

薄いピンク色のアザミと、オレンジ色のツンべルギアが寄り添って朝日を浴びていたが、雲に遮られ少し残念そう。




「それじゃ行ってくるよ。」

「シュウ、ちょっと待って。」


栗色のふわふわした髪をもつ青年シュウはたった今出た家を振り返る。

まだ早い。その顔は時間に追われている様子ではない。

右手に紙袋を持ったシュウを呼び止めたエプロンをかけた女性は続けて話す。


「お仕事の帰りでいいのだけど、サラのお薬をもらってきてほしいの。」

「あぁ、この前言ってた。届いたんだ?」

「ええ。新しいお薬なんだけど昨日届いたみたい。

お金は前払いしてあるから取りに行くだけなのだけど・・・。もし都合が悪ければ母さんが取りに行くわ。どうかしら?」



ヘルミの心はサラと呼ばれた人物にあることがわかる。

だが、苦労を掛ける息子に真っ直ぐ視線を向けたまま、無理を承知で頼む。

今日の分はあるのかと確認を入れると、

あると返ってきたので安心したシュウは


「なら僕が帰りに寄ってくるよ。

母さんは姉さんを看てて。」


と告げる。母には姉の看病も家事も一手に引き受けてもらっているので

少しでも安心してほしいと息子なりの気遣いを忘れず笑顔で応える。

それを見た母は、瞬時心で思った言葉を取らずに、また笑顔で、


「ありがとう。お礼に今日はあなたの好きなものを作るわね。」

「ほんと?ふふ、楽しみにしてる。それじゃそろそろ行くよ。」

「ええ、いってらっしゃい。」



家の中の時計を見てまだ15分ほど余裕があったが、今日は遠回りをして出かけようと

していたシュウはヘルミに背を向けて歩き出した。



__再び太陽が顔を出し、

少し目が眩むがもう一度我が子を見送ろうとシュウに目を向ける。


そこにはヘルミが予想だにしなかった光景が映った。

知る人物と面影が重なる。

シュウは知らない、

サラも覚えているか・・・。



その光景に微笑みを漏らす。

太陽の輝きにも負けない彼女にとっての大きな光に。



「今日もあの子を見守っててね。」



誰に届いただろう。

だが届いてほしい。


そう願いながら彼女は彼女の仕事に取り掛かる。



今日は洗濯物がよく乾きそうだ。


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