子供美学
春風月葉
子供美学
私は我が子を叱る。
まだ幼い子供は、反論する術もなく黙っているだけだ。
そう思っていた私は愚かだった。
子供はそのうち私の罵声を浴びながらも、何食わぬ顔で手遊びをしていた。
どうして私の話を聞かないのかと私が怒鳴り上げると、子供は当然のようにこう言った。
「この話にはもう価値がないから。」
私はかっとなったが、振り上げた右手を腰に戻して冷静になることにした。
いや、図星だったから手をあげることさえできなかっただけかもしれない。
考えてみればその通りなのだ。
いくら叱ったところで、子供が理解すれば終いだし、理解できないと思ったらそれまでなのだ。
それ以上に意味などなかった。
気付いた途端に虚しくなった。
私は夫と共に子を叱る。
私達はこうすることで自分達に数の利を作っていた。
子供は私達の予想通り、一切の反論をしない。
しかし、時が経ってから気が付いた。
私達は子供の意思を聞き入れず、発言の場を奪っていたのだと。
同年代の友人に堂々と発言する我が子を見てからは、隣にいる口数の少ない子供はここにいるようでもういないのだと感じ、寂しくなった。
教育者として、どんな生徒にも優しく接してきたつもりだった。
それなのに、子供は不思議なもので心を開いてなどくれなくて、いつも見えない壁を築いていた。
誰かにいじめられているのかい?
子供は答えない。
言ってくれれば助けられるのに、私の言葉は届かない。
まったく、子供とはわからない生き物だ。
子供美学 春風月葉 @HarukazeTsukiha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます