ウィスパー

春風月葉

ウィスパー

 私の耳は少しばかり故障しているようだ。

 悪魔の囁きとか、天使の囁きとか、そんなものがあるだろう?

 私の耳はどうやらそれを聞き取ってしまうようなのだよ。

 壊れているのは頭の方だって?まぁそう言うな。

 この壊れた耳は意外にも面倒なものでな…。

 例えば私がこの耳を切り落とそうと考えるだろう。

 すると彼らは現れる。

 ダメです自分を大切にしてください!と天使は言い、悪魔は景気良くバッサリ切ってしまえと言う。

 こんな風に彼らは私にニ択を押し付けてくるのだ。

 実際に非があるのも利があるのも私だというのに、勝手なものだ。

 その夜も私は選択を迫られていた。

 悪魔と天使はニ択を用意する。

 …お前はどうしたい?

 聞き覚えのない三人目の囁きが私に問いかけた。

 この退屈なニ択を止め、私が選択肢になりたい。

 そう思った時、彼らの声はスッと聞こえなくなった。

 以来、天使と悪魔の声は聞こえなくなった。

 あの声の主は誰なのだろうか?

 私は今日も無限の選択肢を手探りで試す。

 たまに聞こえる囁きは何一つ問いかけることなく、ただただ私の背中を押したのだ。

 どうだ、不思議な話だろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウィスパー 春風月葉 @HarukazeTsukiha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る