不釣り合いな鉛筆
春風月葉
不釣り合いな鉛筆
昔、私は絵描きになりたかった。
幼い頃に憧れていた画家から鉛筆を貰ったことがある。
デッサン用の太くて濃い鉛筆だ。
今、私は小さな企業で一人の社員をしている。
好きでもない上司にいいように使われて書類の束を貰っている。
私の分ではない他人の書類だ。
幼い頃は帰ったらすぐに絵を描いていた。
私は家に帰るとパソコンと向き合った。
鉛筆は大事に、しかし孤独に机の奥にしまわれている。
夢をしまって現実をこなす日々は、私の優しい思い出をも蝕んだ。
いつしか金の思い出は、鉛の過去に変わってしまった。
夢は私を縛る鎖になった。
こんなものがあるから…。
そう思って鉛筆を窓から放り出した。
いざ鉛筆を手放すと、後悔が波のように押し寄せてきた。
私は外へと飛び出し鉛筆を探した。
幸いそれはすぐに見つかった。
私の心はこれでもかというほどに安堵していた。
きっと私は、今後も過去の夢に縛られ、慰められるのだろう。
その日の私は久しぶりに絵を描いた。
不釣り合いな鉛筆 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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