バルーション

春風月葉

バルーション

 活気ある夜街には合わぬ、暗い顔の男が一人、スーツケースを携えて駅へと歩いていた。

 彼は上京から七年、田舎の両親のために働き続けた。

 しかし、誰にも評価されることはなく、こうして七年間を後悔で染めて帰郷を決めたのであった。

 彼は駅のホームで列車を待っていた。

 故郷は今頃、雪が降っているだろうか?

 そんなことを考えながら、ぼうっと立ち尽くしていた。

 そこに一人の女性が現れた。

 彼女もスーツケースを携えていて、きっと帰郷をするのだと思われた。

 ただ一つ違うことがあるのなら、それは表情だろう。

 彼女は笑っていた。

 彼にしてみれば、上京したのに成果も出ず評価もされないまま帰郷することは、今後も続く長い人生の限界を決めることに等しかった。

 それなのに彼女はなぜあんな風に笑っていられるのだろうと、彼はそればかりを考えていた。

 結局、答えは出ないまま列車はやってきて、一人は重い足を引きずり、もう一人は軽く踵を浮かせながら列車に乗った。

 列車の汽笛は彼らにどう聞こえたのだろう。

 終わりを嘆く呻き声か?

 始まりを告げる鐘の音か?

 旅立ちの汽笛は、夜の空に鳴り響いていた。

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バルーション 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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