不治の病
彼はひどく悩んでいた。もうすぐ医者に宣告された余命の2年が迫っていたのだ。まだ死にたくない。まだ死にたくない。ああ、神がいるというならばなぜ私を救ってくれないのだろうか。
隣で眠る恋人の横顔を眺めながら彼は自分にあとどれだけの時間が残されているのだろうかとそんなことを考えながらじきウトウトと眠りについた。
「目を覚ましなさい」
そんな荘厳な声が聞こえてきて彼は飛び起きた。
辺りが真っ白な光に包まれ目の前に絵にかいたような神様が遥か天空から舞い降りてきた。
「嘘だ。ついに私は死んでしまったのか」
彼は絶望のなか叫んだ。
「まてまて、はやまるでない。お前はまだ死んではおらんよ」
そう神は微笑みながら答える。
「なんと本当ですか!ではなぜ神様は姿をみせているのですか」
「お前の必死に願うその姿が不憫に思えて仕方がなくこうして姿をあらわしたのだ」
「おお何ということだ。ではあなたは私を救ってくれるというのか」
彼はうれしさのあまり今にも泣きだしそうになった。この喜びを伝えるため彼女をおこそうとゆすってみたが彼女は一向に起きない。仕方なく彼は彼女を起こすのを諦めた。
「お前の枕元にある瓶が見えるか」
神は彼に言った。彼は先ほどまで寝ていたであろう枕の方を見ると何か液体の入った透明な瓶が見えた。神は続けた。
「あれはこの世にあるありとあらゆる病気を治すことのできる薬だ。それをお前にやるから起きたらすぐに飲むといい」
「ああ、神様、本当に、ありがとうございます。あなたから、頂いたこの命、大切にします」
彼は声を詰まらせながら神に言った。
「よいよい。これからの人生大事に生きるのだぞ」
そういって神はまた天高く舞い上がっていった。
「それと、恋人を大切にするのだぞ」
辺りを包んでいた白い光が消えると、自然と彼はまた眠りについた。今度は不安も何もない穏やかなまるで大海原のような深く気持ちの良い眠りだ。
小鳥たちの陽気なさえずりで彼は目を覚ました。一瞬あの出来事は夢だったのではないかと不安になり急いで枕元を確認すると確かにあの薬があり安心した。
隣でまだ気持ちよさそうに眠る彼女を愛おしそうに撫で、彼は薬を飲み干した。
なんの味もしないが心なしか液体の通った後の胸のあたりがスッとした。
再び彼は彼女の方を眺める。そこに今まで感じていたはずの愛おしさを感じなくなっていた。
思いつき短編集 蓮本 丈二 @hasumotojogi
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