業の秤

 ある男が死に地獄へやってきた。男は亡者の列に並び、閻魔大王の審判を待った。やがて、男の番がやってきた。鬼に連れられ閻魔大王のいる部屋へと入った。部屋に入ると中央に閻魔大王が鎮座していた。

「これより、お前の生前の罪の重みを量る。目の前にある秤の上に登るのだ」

 閻魔大王に言われ、男は素直に秤へ登った。秤は、はじめ大きく振れしばらくすると落ち着いた。

「お前は生前、善行を進んで行っていたようだ。秤がそれを示している。お前は天国へ行くがいい」

 男はそう言い渡された後、鬼にとある広間に連れていかれた。そこはどうやら天国行きになった亡者たちが集められる広間のようだった。鬼にここでしばらく待つようにと言われので、男はおとなしく待つことにした。しばらくして何人か広間にやってきた。皆、天国行きが決まり晴れやかな面持ちである。

 痩せたひょろ長いもやしのような男が広間に連れてこられたとき、連れてきた鬼にこれで今日の天国行きの者は最後で今から天国行きのバスを呼ぶからもうしばらく待ってほしいと言われた。

 ふと、先ほどのもやし男に声をかけられた。

「あなたも天国行きなのですね。おめでとうございます」

「いえいえ、とんでもないです。私なんかが天国行きになってよかったのでしょうか」

 そういって男はもやし男に質問した。

「あなたはとても痩せていらっしゃるが、死因はもしや餓死ですか」

「ええまぁ。実は私は生前戦争で親が死に身寄りのなくなった子供を何人を何人も預っていたのですが、食料も少なくなり、せめて子供達には沢山食べさせようと思い私の分を減らしていたのですが、どうもそれが原因で死んでしまったようです」

「そうでしたか。それは子供たちの事が気がかりですね」

 男は気の毒そうな顔でそう言ったが、もやし男は明るかった。

「死んだ直後はそうだったのですが、閻魔大王様に聞いたところ、私が死んですぐ戦争は終わったそうです。天国へ行けることも決まりましたし、これからはあの子たちを天国から見守りますよ」

 もやし男は笑顔で答えた。次は、逆にもやし男が質問した。

「それで、あなたはどうして。」

「お恥ずかしい話で、趣味の最中に下手を打ちましてね。あなたの国とは違いのん気で平和な国に住んでいましたので、あなたのような立派なお話はありません」

 男は恥ずかしそうにそう答えた。

「平和なことはいいことですよ。ところで、その趣味は何だったんですか」

 もやし男は笑顔のまま聞いた。

「とても自慢できるようなものじゃないんです。夜遅く適当な人を見つけて襲って殺すんです。物とか取るわけではなく、単純に殺すだけです。最後に襲った人の息の根を止める前に反撃されて、それが致命傷でした」

 顔色を変えず話す男の異常さに、もやし男の笑顔は引きつっていた。

「私はてっきり地獄行きだと思っていたのですが、閻魔大王は甘いですね。秤が何周もしてあの位置に落ち着いたのにも気づかないなんて。秤はダイアル式ではなく天秤式に戻すべきですね」

 ちょうどバスがやってきた。二人はバスに押し込まれ天国へと出発した。

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