ロボットくん、旅立つ

 彼は旧型自動レジスターロボットで、22世紀現在ではごくわずかしか残っていないDVDレンタルショップでレジ係をしていた。彼の仕事は単純だった。ごくたまに来る客にDVDを貸出す。返ってきたDVDを返却する。そして劣化の進んだDVDの修復する。ただそれだけだった。

 ある日、客が借りていたDVDを受け取ると、客から映像が途中で止まると言われた。彼はいつものようにセカンドコンピュータで映像のチェックと映像修復を同時進行で行った。

 DVDの中身は旧世紀の地球をある男性が旅をして周るものだった。美しい湖、野生動物の走り回るサバンナ、神々しくそびえたつ白き頂の山々、今ではもう見ることのできない景色ばかりだ。

 映画の最後のシーン、旅を終えた男は故郷に帰る。彼の家の周りは広大な平野が広がっていて一面に黄色の大きな花が植えてあった。太陽のようなその花はほかの映画でもたまに出てくるヒマワリという名の花だった。彼がDVDを受け取った時、彼は客からここからそう遠くない町がそのヒマワリ畑の舞台で今でもごくわずかに残っていることを聞いた。

 彼はロボットだ。しかし、この映画に映し出されたひまわり畑がこれまで見てきたどんな映画のワンシーンよりも美しく、また愛おしく思えた。そして、どうしようもないくらい惹かれた。彼は決意した。今日の営業時間が終わったらこっそりと店を抜け出し、ヒマワリ畑を見に行こうと。

 お店が終わり、いつもならスリープモードに入るのだが今日は、そのままレジから売り場へ出た。いけないことだとは彼自身思っていたが、例の映画のパッケージを拝借し、店から出た。時刻は深夜3時を回っていたが、そこらじゅうの4Dデジタル広告の明かりで辺りは明るかった。人はあまり歩いてなかったが、多くのロボットやドロイドが動いていた。いよいよ彼はひまわり畑に向かって歩き始めた。

 私はいつものように古臭い旧世紀の映像媒体を借りにあの店に向かった。修復は終わっただろうか。途中、道の真ん中に人だかりができていた。興味本位でそちらを覗きに行ってみると、一体のロボットが倒れていた。そのロボットはどうやらエネルギーが切れ、すっかり動けないようだ。手に何か持っているようだがよく見えない。

 ふと彼の腰の部分からコードのようなものが伸びているのに気が付いた。そのコードを辿ってみるとあのDVD屋についた。やはり、彼だったようだ。コードはレジのすぐ下まで伸びている。レジの下を覗き込んでみると、そこにはコンセントから抜けたプラグが力なく転がっていた。

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