ラクガキ机チャット
春風月葉
ラクガキ机チャット
高校三年生の夏、大学受験を控えた私は、自身の通う学校の空き教室で一人静かに自習をしていた。
夏季休業も残り半日になろうとする頃、私は奥の机にラクガキがあることに気がついた。
『こんにちは』
と書かれただけのラクガキが何故か私は気に入り、私も同じようにこんにちはと書いてから帰宅した。
翌日の昼食後、ラクガキが気になって昨日と同じ机を使った。
するとそこには新しいラクガキがあった。
『男の子? 女の子? どっち? 』
私は少し考えてから、どっちだと思う? と書いた。
翌日の昼、ラクガキは律儀に返事を終えていた。
『うーん、字がきれいだから女の子! 』
「ありがとう。でも正解は秘密です。」
性別に関しては図星だったので、私はそれに対する返答を濁した。
それからも私たちのやりとりは机の上で続いていった。
『あなたは何年生? 』
「三年生です。」
『受験生かぁー、ガンバレ! 』
「ありがとう。」
『文化祭楽しかったー。』
「私は疲れちゃいました。』
『体育祭の時期だ! 』
「私は運動苦手です。」
『勉強はどう? 』
「もうすぐ受験、緊張します。」
『ついに明後日だね。ガンバッテ』
「ガンバります。」
『おつかれ。』
「うん、一年間ありがとう。さようなら。」
受験の結果を言えば、私は落ちた。
この日の私は名前も姿も知らない誰かに、最後のお別れと受験の結果を言う…いや、書くために来ていた。
「受験失敗しちゃいました。」
そう続けて書き、
「一年間、応援してくれたのにごめんなさい。本当にありがとう。」
と閉じた。
そして、扉を開けようとした。
ドアの曇りガラスのせいか、前がよくみえない。
ガララ…、急にドアが開き、一人の男子生徒が入ってきた。
「あっ、えーと。先輩、受験おつかれさまでした。」
彼の言葉を聞いて、はっとなった。
「もしかしてラクガキの? 」
「はい! 」彼はニカッと笑って答えた。
「そう…、ごめんなさい。受験はおちちゃったの…。」
「そうですか…、その俺って頭悪くて、先輩みたいに良い学校うけらんないから…来年、通信制に入るつもりなんですけど、そこの募集はまだやってて、入学の時期も少しズレているんです。」
なんで彼は自分の入ろうとする学校の話をするのだろう? という疑問はすぐに消えた。
「もし良ければ、来年も俺の先輩でいてくれませんか? 勝手ですし、一年も待たせてしまいますけど、俺はもっと先輩と話をしていたいんです。机の上じゃなく先輩の隣で! 」
「…ふっ、あはは。」
おもわず笑ってしまった。
「何それ…ふふっ、でもありがとう。考えておくね。」
その後、私は彼の言う通信制の学校へと通うことを決意した…
…そして現在。
「先輩、どうしたんですか? 変な顔して。」
「ううん、なんでも。あと女性に向かって変な顔とかいわない! 」
「そういえばこれ、次の会議資料です。」
ドサァッ、ものすごい量の紙の束に目まいがする。
「うわぁ、これまた多いわね。」
「大丈夫ですよ。俺も手伝いますから。」
頼れる私の後輩はニカッと笑ってそう言った。
ラクガキ机チャット 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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