本の語る町
春風月葉
本の語る町
目を開けるとそこはインクの匂いが漂う不思議な町だった。
はっと今更になって思い出した。
今日から私はこの不思議な町に引っ越す予定だった。
ここは物書きの町ノベル、紙とペンばかりの殺風景なところだ。
この町の住民は言葉を交わさない。
というより話さない。
しかし、彼らはとてもおしゃべりだ。
口を利かないおしゃべりなんて不思議だろう。
彼らはね、文字で語るのだよ…それはそれは雄弁にね。
どうしてそんな風に面倒くさいことをするのか?
初めは私も疑問に思ったよ。
それはね、彼らが本当におしゃべりが大好きだからさ。
あんまり話すのが好きだから、この世を去っても喋っていたいんだってさ。
笑ってしまうだろう。
「…ハッ! 夢? 不思議な夢だったな…。」
もし本当にそんな町があるなら、引っ越してみたいものだ…飽きることなく語ってくれる小説達の町、本を読むのが好きな私には最高の場所だろう。
そんな風に夢の余韻に浸りながら、私は近くに置かれた読みかけの小説に手を伸ばし、パラリとその端を撫でた。
本の語る町 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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