ブランコの上の彼女

春風月葉

ブランコの上の彼女

 告白しましょう。

 私はずっとあの方が好きだった。

 すらりと高い身長も、知的で素敵な眼鏡も、いつも変わらない愛らしい笑顔も全て、本当に好きでした。

 話したことなど一度もないし、そんな機会は今後も私には巡ってはこないでしょう。

 それでも私は彼女が好きなのです。

 彼女はいつも決まって、日の落ち始めるこの時間に、この公園にきては錆の目立つ古いブランコに座ります。

 そうして何かを考え込みながら、溜め息を吐いたり、涙を流したり、また笑ったりしました。

 彼女が笑えば私も幸せな気分になり、彼女が泣けば私も哀しくなります。

 そして、毎日決まって彼女がいなくなると私はとても切ない気持ちになるのです。

 本当に、私は彼女をずっと昔から好きなのです。

 それこそ、ブランコから地に足が着かないほど小さな頃からの彼女を知っています。

 だから彼女が別の男と公園にくるようになると、私は面白くない気分になりました。

 しかし、何ができるわけでもない私には草陰に隠れて見ていることしかできません。

 彼女は眼鏡をかけることがなくなりました。

 そのうち、彼女は公園にくることもなくなっていました。

 せめて彼女に近く生まれたかった。

 ある日、彼女は一人で泣いていました。

 昔に戻ったように、ブランコの上で、たった一人で。

 久しぶりに彼女を見て、昔に戻れたようで私は嬉しかった。

 しかし、それ以上に私は彼女に泣いてほしくはないと思ったりもしたのです。

 私は彼女に近づいて、慰めようとしたのでした。

 私は彼女のもとへ行くと、その足に口付けをし、

「にゃー。」

 と一言鳴いたのです。

 すると彼女は私を見て、ふっと笑って私を撫でてくれたのです。

 それだけでも、私は本当に幸せだったのです。

 彼女の中に残らないとしても、彼女の側には居られなくても、彼女の笑顔が見れた私はきっと、本当に幸せだったのです。

 あぁ、彼女を愛せて良かった。

 こんなに幸せな私がこれ以上何かを欲するなど図々しいとは知っています。

 それでも、もし叶うなら…、次というものがあるならば…、私は彼女と同じ人間に生まれたい。

 例え今まで通りに恋が叶わぬとも、彼女の近くで生きていたい。

 せめて私は、彼女の何かに生まれたい。

 彼女に名前を呼ばれたい。

 名も知られぬ猫の私はそう願いました。

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ブランコの上の彼女 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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