右かと思ったけど左

アルミ缶の上にあるミカン

第1話(終了!)

「それじゃー、なるべく早くこうえんにしゅうごうね!」

 小学2年生の女の子――宮部 美優――は、T字路を右に曲がって、逆方向に向かった友達に声をかける。

「うん、わかった!」

 美優は友達の声を背中で聞きながら、ツインテールをこれでもかと振り乱しながら小さい身体を精一杯使って、家へ全力疾走していく。


 道行く人に挨拶をしながら走り5分程度、二階建てで、庭付きの一般的な一軒家に到着した。

 それから美優は、少し高めのドアノブをひねって、ドアを開ける。

「ママ、ただいまー」

 そう言って美優は家の中へ入っていった。


 それから、数秒後、美優は普通の運動靴からキラキラとした装飾のついたピンク色のサンダルへと履き替えてドアを開けて勢いよく飛び出てきた。


「ママ、いってきまーす!」

 そう、元気に家の中にいるのであろう母親に大きな声で声をかけて、近くにある小学生の遊び場として定番の大谷公園へと走っていく。

 途中で何度かつまづいて転びそうになるものの、なんとか怪我もせずにたどり着いた。


 公園には待ち合わせを約束した6人の内、美優を含めて3人が到着していた。

「ごめん、まった?」

 美優がそう聞く。


 おさげで眼鏡をかけていて、いかにも委員長です。といった姿の女の子が美優の問いに対して返答する。

「うぅうん、ぜんぜん待ってないよ。私もさっき来たばっかりだからだいじょうぶだよ。由紀ちゃんもそうだよね?」

 話を振られた由紀という髪の毛を肩ほどで切りそろえ、肌が日焼けで小麦色に染まった活発そうな女の子は口を開く。

「うんうん、ほんとににさっき、きたばっかだよ! だから、みーちゃんもそんなにいそがなくても、よかったのに」


 二人にそう言われ美優はホッとした顔をする。

「うん、そっか。でも、せいなちゃんもゆきちゃんも、またせちゃってごめんね」

「うぅうん、そんなことないよ。それじゃあ、残りの3人が来るまでなにしてあそぶ?」

 それを聞き、由紀ちゃんはビシリッといった効果音が付きそうなほどきれいに右手を空へと伸ばした。

「おにご! おにごがしたい!」

 それを聞いたせいなちゃんが眼鏡を少しクイッと持ち上げて

「おにごっこか、これなら後から来た人もとちゅうではいりやすいから、いいね。じゃあ、おにを決めよっか」


 そうして、3人は円を作るように並び手を握りこぶしを作って体の前に差し出した。

「「「さいしょは、グー、じゃんけんほい!!」」」

 3人がそれぞれ思い思いの手を出す。

 どうやら、由紀ちゃんの一人負けのようだ。


「んー、負けた! じゃあ、10秒かぞえるからにげて! 1,2、――」

 由紀ちゃんは悔しがりながら目を閉じて数を数え始めた。

 別に、鬼ごっこだから、目をつぶる必要は無いんだけどな……


「それじゃあ、せいなちゃん、いっしょににげよっ!」

「うん!」

 そういって、由紀ちゃんが10秒を数えているうちに2人は少しここからでは見えずらい木の陰へと向かっていった。



「――9、10!!」

 由紀ちゃんが10秒間を数え終わり、2人の姿を探すが、その姿は見つからない。

「あれ? 2人ともどこに行ったのかな?」

 取り敢えず、公園内をしらみつぶしに探していくようでトイレの中だったり、別の木を探したりしていく。

 それから、しばらくして、2人が隠れている木を見つけることに成功した。

 しかし、近寄られているのに気が付いた2人が由紀ちゃんが2人の姿を見つける前に木から逃げ出していく。

 先手を取られた由紀ちゃんは遅れて2人の存在に気が付き、全速力で追いかけていく。

 見た目通り、由紀ちゃんの運動神経はかなり高いようで2人との距離がどんどん秒ごとに縮まっていく。

 美優とせいなちゃんでは、せいなちゃんの方がかけっこのスピードが遅いようで、由紀ちゃんにタッチされてしまった。

「タッチ、されちゃった。じゃ、次は私がおにね!」

 そうした、せいなちゃんが2人の方へ襲い掛かろうとした瞬間、公園の入り口の方から声が聞こえた。


「ごめん! ちょっと、準備してたら遅れちゃった!」

 入口の方へ振り向くと、3人の女の子がいた。


「んもう、待ってたんだよ!」

 せいなちゃんが少しプリプリと怒った様子で3人に言う。


「じゃあ、私たちがきてぜんいん、あつまったみたいだし、たんけんにいこ!」

 そう、後から来た3人の中の1人である、背が高めの女の子が声高らかに宣言した。


「え、たんけんとかって危なくないの?」

 せいなちゃんが少し不満というか、不安を零しているのだが、美優を含む5人は探検に乗り気なようで全員で探検に行くことに決定した。

 場所はすぐそこの神社の横にある下水道へ行ける道のようだ。




 それから、6人は5分ほどの時間をかけて目的の場所にたどり着くことができた。


 下水道への道は神社にある大き目な溝へと下りなければならないようで、せいなちゃんがかなり不安がっている。

「ほんとうに、こんなとこにおりてもいいの? だいじょうぶ?」

 少し、涙目のせいなちゃんだが、背の高い女の子は説得を試みる。

「だいじょうぶだって! だって、兄ちゃんが、なんかいもいってるって言ってたもん! みんなもいくからせいなちゃんもいこ?」

 そう、言うと、美優と他の3人の女の子も同意するように何度も首を上下に振る。


 こうなると、せいなちゃんも行きたくないとは言えないのかしぶしぶ降りることにしたようだ。


 6人は溝に下りていき、下水道を探検しに行った。



 それから、5分ほどして、6人は帰ってきたようだった。

「すごかったね!」

「このトンネルのおくって、あんなんになっていたんだね!」


 とても興奮しているのか、少し大きめの声が溝に反響して辺りに響いている。

 そうして、溝を美優たちは登りあがってくるのだが、地上に上がれたのは5人だけのようだ。


「せいなちゃん、登ってこれる?」

 そう、美優が溝の下へむかって声をかける。


「のぼってこれない! たすけてぇ~」

 すこし、涙声っぽい声があたりに散らばりながら、上へと届いてくる。


「私が、したにおりてもち上げてくる!」

 そう言い、背の高い女の子はもう一度、下へと飛び下りていった。


 それからすぐ、下から、声が聞こえてくる。

「ううぇーん、ありがと~! 冷夏ちゃん!」

「それじゃあ、登るのてつだうからがんばろ!」

 どうやら、冷夏ちゃんが、せいなちゃんが登るのを手伝うようだ。




 それから、30分後、空が少しオレンジ色に染まったごろにせいなちゃんと冷夏ちゃんが溝から這い上がってきた。


 せいなちゃんの顔はとてもひどいもので涙と鼻水で可愛らしい顔がぐちゃぐちゃになっていた。

 そして、それをみた美優はポケットに入れているハンカチをせいなちゃんに渡し、顔を拭くように促した。


「ありがどう」

 そういって泣きながらせいなちゃんは美優からピンク色のハンカチを受け取り顔を拭いた。

 せいなちゃんが泣き止むまで、待っていると日はかなり落ちてきていてどうやら解散となったようである。

 美優と同じ方向に家がある女の子はいないようで美優は1人で帰っていく。

 ちなみに、ハンカチは後日、洗濯して返すとせいなちゃんが言っていた。


 美優は帰っている最中にも、下水道へ行った興奮が醒めないのか、「すごかったなぁ」とか「ひみつきちにしたいなぁ」だとかぼそぼそと一人で呟きながら歩いて行った。


 それから、少し歩き、美優は自宅へと到着した。

 そして、学校から帰った時と同じように少し背伸びをしてドアノブをひねってドアを開け、「ただいまー」と言って家の中へ入っていった。


 家の中に入るとまっすぐにリビングへと向かいテレビのリモコンを手に取りテレビの電源をつけて、子供用番組に選局し、ソファーへ座って見始めた。

 足をぶらぶらさせながら、美優が番組を見続けていると、美優の兄と父が帰ってきて夕飯にすることになった。


「「「「いただきまーす」」」」

 そう、家族全員が食卓につき手を合わせて口にする。


 今日の夕飯はカレーライスのようで、美優は少し口の周りを茶色に汚しては、お母さんに拭かれおいしそうに食べていた。

 美優が、今日やった探検の話をすると、父親は少し怒り、危ないからと次からやめるように言った。

 だが、美優の様子を見る限りでは全く反省しておらず、また今度行きそうに見えた。


 それからは、家族みんなで談笑し、テレビを見、風呂に入り、9時なると白い生地に小さい黒猫がたくさんプリントアウトしてあるパジャマを着て、布団の中に入った。

 そして、それから5分後、掛布団は規則正しく寝息に合わせて上下するようになった。どうやら、完璧に寝たようである。




 朝、7時に美優は目覚め、微睡む意識を無理やり浮上させ学校の準備を始める。

 いつも通り、顔を洗い、食卓について朝食が出るのを待っている。


 この日の朝食は、バターが乗ったトーストに、スクランブルエッグとこんがり焼けたベーコン、飲み物は甘く、温かいココアであった。


 そのおいしそうなにおいは、リビングだけに留まらず、別の部屋、さらには、外にまで漂ってくるほどである。


 そして、それを食べた美優は歯を磨き、キャラクターの姿が大きく張り付けられている少し、色あせたピンク色の服、黒色のチェック柄が入った赤いスカートにパジャマから着替え、赤いランドセルを背負い、準備を完了した。


「それじゃあ、行ってきまーす!」

 美優は大きく挨拶をしながら家のドアのカギをガチャリと開け、ドアノブを回し、家族の「いってらっしゃい」を背中で聞きながら、家から出て、学校へと向かっていく。


 いつも通りの通学路を歩いて行こうとすると、ふと、逆方向へ歩いて


「ねぇ、ねぇ、おじちゃん。きのう、こうえんにいたよね? そんなところでなにしているの? なにかこまってるの?」


「ん? おじちゃんはね、友達がいないから遊ぶひとがいないんだ。美優ちゃん、おじちゃんと遊んでくれる?」


「うん! いいよ! なにしてあそぶ!?」



 それじゃあ、おじちゃんと遊ぼうか……、美優……。

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