第18話 ロック視点_ルナの本性
ふんっ。気に入らないな。
ロックは、教室でクラスメートのクロムとマーナが話をしているのを後ろから見ていた。近くにはルナ、そして姫様もいる。彼女たちはみんな、クロムは慕っているようだ。
くそっ。しかもやつは平民じゃないか。俺たち貴族があんなやつに好き勝手されるなんて我慢ならん。
ロックは去年、魔法大会の準決勝まで残っていた実力を持つ。そこで敗れた相手がルナだ。彼女がこの西校に転校してきたとき、お近づきになるための千載一遇のチャンスだと考えていた。もちろん、魔法の戦い方、その考え方を教えてもらうためだ。決してやましい気持ちなどない。
なのにあいつが独占しやがった。
あいつはちょっと前まで変人と呼ばれ、誰も相手にしていなかった。別にイケメンというわけでもなく、背が高いわけでもない。いつもだるそうにしている、どこにでもいそうな凡人だ。それがマーナと仲良くするようになり、転校初期のルナとはもうすでに親密な関係にあった。
奴め。どんな魔法を使いやがったんだ? 所詮貴様は変人なんだよ。変人は変人らしくしてろってんだ。
ロックは休み時間、外に出た。ある人に会うためだ。隣クラスにいるダライに声をかけ、廊下に出た。一時期、彼はマーナと恋人との噂がたっていたが、今は見る影もない。そのときの自信はどこにいったのかといわんばかりに暗い顔をしている。
「クロムのことについて聞きたいことがある」
「あ、ああ・・・・・・」
「あいつはいったい、どんな魔法を使ったんだ?」
「どういう意味だ?」
「あいつはマーナさんと恋人だし、ルナさんとも仲がいい。マーナさんと恋人だったあんたなら、なにか知ってるんじゃないか?」
「俺はなにも知らない」
奥歯に物が引っかかるような喋りかたをした。
本当なのか? 知っていて話したくないだけじゃないのか?
「俺も気に入らない。でも、あいつに一泡吹かせてやろうなんて思わないほうがいい」
「どういう意味だ?」
「あいつは化け物だ」
その目は冗談を言っているような雰囲気ではなかった。彼は話が終わったとばかり、教室に戻っていく。
化け物? あいつがか? 大会で一回戦負けしたあいつが? はっ。なにを言ってやがる。あんなやつが化け物だとしたら、俺とかルナはどうなるんだ? バカバカしい。
ロックはその他に情報を他生徒から収集する。それによるとどうやら、夜、魔法の練習をしているようだ。場所は実習部屋。
クロムが教わっているのか?
ここは真相を確かめるため、やつらに取り入ってみるか。
その夜。
時間は八時だったな。
ロックは十分ほど過ぎたところで、地下の実習部屋に足を運んだ。
おっ。やってるな。
灯りがドアの隙間から漏れていたのですぐにわかった。
さて。ここまできたのだから、このまま帰るわけにはいかない。ここは馴れ馴れしい感じでいってみよう。演技には自信がある。これでも演劇で主役の候補に挙がったほどだ。
ドアを開ける。部屋にはルナ、マーナが立っている。そのそばで座っているのはクロムと姫だ。ロックへ視線が集中した。
「やあやあ。クロムくん」
「え? あ、どうも」
気さくな性格を演出しながらクロムに近づく。
見たところ、ルナ、マーナの二人が魔法の練習をしているようだ。クロムは座って休んでいる。
「えっと。ロックくんでしったっけ? 同じクラスの」
「あ、ああ。そうだよ。覚えてくれてうれしいなあ」
覚えていたのか。こいつ。俺なんか眼中にないと思っていたが。
「ここで魔法の練習をしていると聞いてね。見学してもいいかい?」
「かまわないけど」
クロムの一言で彼女たちも納得したようだ。練習を再開する。
こいつ。いつもボソッとなにか言うんだよな。暗いっていうかなんていうか。良く言えばクール。悪く言えば暗い。しかし最近のこいつは、若干明るい顔をするようになった気がする。周囲の女子たちのおかげだろうか。というか、ハーレムだよなこれ。ふざけるなよ。ちょっとでも変なことしたら、そく先生に言いつけてやる。そして退学だ。
「えっと・・・・・・なにか?」
「い、いや! なんでもない」
凝視していたようで、クロムはロックに問いかけてきた。
危ない危ない。
ロックは立っているのもなんなのでクロムの近くに座ることにした。姫とどうでもいい会話を繰り広げている。絵がどうたらこうたらという内容で、よくわからない。姫は俺のことなんて眼中にないようだ。入ったときに一度チラッと見ただけ。生意気なガキといったところか。
女子二人は魔法を使っていた。なんとなく眺めていたが、やがて変なことに気づく。ロックの目が大きく見開かれた。
「え?」
彼女たちは詠唱をしていない。それに魔法の発動時間が速すぎる。
どういうことだ、これは?
思わず身を乗り出した。そしてクロムを見る。やつはボケ~としたまま、眠たそうな目をこすっていた。
なんのためにいるんだ、こいつ?
「ちょっといいか?」
「ん?」
「これはいったいどういう・・・・・・」
「ク~ロム! ちょっと見てくれるかな?」
ルナの大きな声が響いた。クロムは立ち上がり、彼女の元へと向かう。どうやらなにかクロムから教わっているみたいだった。
え? クロムが教わっている立場じゃないのか? なんで奴が教える? しかも相手はあのルナだ。去年の覇者であり、今年の準優勝者。次に、マーナに呼ばれたクロム。なにか言葉をかわしている。
くそっ。どうなってやがる。
ーーあいつは化け物だ。
ダライの言葉が記憶から蘇る。好奇心から、そばにいる姫に声をかけることにした。
「あの。すみません」
「なんじゃ?」
不機嫌そうな顔を向けてきた。お前に用はないぞ、と言外に言っているような気がする。しかし、知りたい気持ちが勝る。
「クロムくんは何者なんだい?」
「あいつか? あいつはロリコンじゃ」
「ろ、ロリ?」
くくく・・・・・・と姫は独特の笑いを見せた。
おそらく冗談だろう。このガキ、教えてくれそうにないな。使えない。
諦めて離れようとしたところ、姫は口を開く。
「わしもあいつのことはよう知らん。しかし、あの二人の先生をしているようじゃから、大したやつなのじゃろう」
「先生? クロムくんが?」
「そうじゃな」
ますます興味がわいてきた。
あいつが何者なのか、調べる必要がありそうだ。
練習は九時すぎに終わった。ロックも帰ろうとしていると、ルナから声をかけられる。
「ねえ。一緒に帰らない?」
「あ、ああ。いいとも」
これは彼女に近づけるチャンス! 願ったりだ。
ロックはクロムたちと別れる。ルナと二人きり、学校を離れる。どうやら途中まで同じ方向のようで、魔力灯に照らされた道を歩いていた。
「ロックくんは、誰から練習のこと聞いたのかな?」
「あ、ああ。それはクロムくんの後ろの席のやつだよ。話しているのを聞いたらしいんだ」
「ふうん。それで練習をのぞこうと思って来たんだ?」
「そうだよ。しかし、見て驚いたよ。魔法をあんなに素早く使うことができるなんて」
「・・・・・・」
「ルナさん?」
彼女は立ち止まったので、ロックも足を止めた。もうすぐ十字路に差しかかる。人通りはない。振り返ると、なま暖かい風が頬をなでた。
「なにを調べてるんだ? お前」
「・・・・・・え?」
それはルナから発せられた言葉とは思えなかった。先ほどまでの可愛らしい口調とは全く違う、どすの利いた声。彼女は灯りと灯りの中間の位置にいて、暗いところにいる。そのため、表情がよく見えない。
「クロムのこと、調べるんじゃねえよ。お前」
「え? えっと・・・・・・。ルナさん?」
ロックは胸ぐらをつかまれた。そのまま、押されて背中を打ちつける。ルナの狂気に満ちた表情が間近にあった。背中から嫌な汗がブワッと流れる。その迫力、ギャップに怖すぎて体が固まってしまった。
「しらばっくれてんじゃねえよ。こらっ! てめえっ! 調べてたんだろ? はっきり言えよコラッ!」
「は・・・・・・はひ・・・・・・」
おしっこがちびりそうだった。
え? 誰なの? この子、誰なの?
「今度、あの部屋に来たら殺すからな。お前の家調べて夜、忍び込んで殺すからな。わかったか!?」
「は・・・・・・はい・・・・・・」
「二度と来るんじゃねえぞ!」
手を離されたロックは、そのまま地面に倒れ込んだ。呆然としたまま、彼女を仰ぎ見る。元の、微笑みを絶やさない表情に戻っていた。いや、どっちが彼女の素なのかわからない。さっきの怖い表情が、本来の彼女かもしれない。それほどの衝撃があった。
「じゃあね。ロックくん」
たたたたっと駆けていく彼女に、ロックはしばらく動けなかった。彼の記憶にある「女神のルナ」の印象にヒビが入り、粉々に砕け散った。
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