第8話 マーナとダライが付き合う!?
キャンプは終わった翌日。
授業は休みだが、クロムは図書館にいた。もちろん勉強ではなく、蛍の幻想的な光を見て、着想を得た。そのような効果があるアイテムの確認だ。
マナの視覚化・・・・・・マナの視覚化・・・・・・。
「あった!」
マナを視覚化させるには、カラーボールというアイテムが必要のようだ。おもちゃの類で、子供を喜ばせるためのものとして使っているらしい。安価だろうと、図書館を出る。そして、次は学校を出て、商店街に向かった。アイテム屋で十個購入する。
これを使えば、うまく行くぞ。
期待を胸に、次の日の早朝。マーナに声をかける。場所は校舎裏で、初めて自分から彼女に声をかけた。
「マナを見えるようにしたらうまくいくかもしれない」
「・・・・・・そう」
気のない返事だった。いつもの迫り来るような勢いはない。変だなと思いつつも体調が悪いんだろうと、解釈した。顔色も悪い。なにか言いにくそうに口をもごもご動かした後、彼女は意を決したように口を開いた。
「クロム。私たち、もう会わないほうがいいかもしれない」
「・・・・・・え? どういうことだ?」
「・・・・・・」
うつむくマーナの顔に覇気はない。
もしかして先日、ルナさんと仲良く話しているのが気に入らなかった、とか?
「そういうことだから。じゃあ」
「あ・・・・・・マーナさん」
どういうことだろう。
胸がざわざわと騒ぎ出す。なにかよくないことが起きている、そういう勘が働いているようだ。
クロムは呆気にとられたが、じょじょに怒りがわいてきた。
彼女のためにやったことだ。しかも、どうしても魔法の秘密を知りたいと言ってきたのは彼女だ。それなのに途中でやめるとはどういうことだ?
イライラを抑え、教室に戻るしかなかった。
妙な胸騒ぎ。その答えは昼に示された。休憩時間になり、教室にはまだ多くの生徒がいる中、ある男が後ろのドアから入ってくる。
「行こうぜ。マーナ」
「・・・・・・ええ」
その男は太っていた。学生寮でときどき見かけ、大きな声を出し、別クラスに所属する、その男の名前はダライ。彼はマーナを誘い、あろうことか彼女はそれに従って立ち上がった。元気なくダライについていき、そして教室の外へと消える。男どもの視線が彼らに集中。みんな目を点にし、「!?」という感嘆マークを頭の上に出していた。もちろんクロムもだ。しかしクロムの場合は「!!??」というさらに上位の驚きを見せていた。
な、なんだ? 夢でも見ているのか?
不釣り合いとか、そういう事実もあるが・・・・・・しかし、マーナはダライの告白を振ったはずだ。なのにどういうこと? 意味がわからん。
「おおっ! 神よ! あなたはなぜそんなに残酷なのですか!?」
クラスの男子の一人が頭を抱え、と悲鳴をあげていた。女子たちは眉を寄せ、「え? なに今の?」みたいな言葉をかわしている。クロムも叫びたい気持ちだったが、変人扱いが加速されるため、やめておいた。
昼休みを終え、マーナが席につく。女子たちは別の話題を振り、問題を避けた会話をしていた。誰もが聞きたい、でも聞けない。
ダライと付き合ってるのか?
それはクロムも遠慮する質問で、心のもやもやを抱えたまま授業が終わった。
学生寮に戻る。カバンを乱暴に投げ捨てた。そしてベッドに仰向けになる。
ああっクソ! イライラする!
この苛立ちの理由、それはマーナのことだ。
どうして知りたいと言い出したことをすぐに諦める?
どうしてダライと仲良くしている?
・・・・・・いや、後者はいい。当人同士の価値が一番尊重される。告白後に仲がよくなったという不可解さはあるが、仕方ない。外野がとやかく言うのは嫉妬しているだけにしか映らない。しかし前者は許せない。まだ練習して五日ぐらいだ。簡単に諦めるなら、最初から話を持ちかけるなよ。
マーナから理由を話すのかと思っていたが、そんなことはなかった。そして数日が経過。
「おい見ろ。あれがマーナ様の彼氏、ダライさんだ」
「彼、貴族の次男だっけ」
「ああ・・・・・・。まあ親とか絡んでるんじゃないか?」
「なるほどねえ」
マーナはダライと一緒に登校してきた。彼女の表情は暗い。クロムはその様子を遠くから眺めていた。彼のニヤリとした顔が目に入り、気分が悪くなる。ため息をつき、校舎に入った。そしていつもの教室へと足を運ぶ。マーナファンの男たちもため息をもらしていた。中にはあまりのショックで休んだものもいる。
貴族と平民。
表向きには平等ということになっているが、実際は違う。貴族は平民と仲良くしないし、逆も然り。貴族は小さい頃から魔法の教育を受けていて、平民を心の中では見下していた。もともと、魔法学校は階級によって別々だった。それが統合したのが貴族と平民との戦いがあったからだ。結果は、平民側の勝利に終わる。いくら優秀な使い手といっても数で勝る平民に、貴族側が勝てなかった。それゆえ、平民も貴族に対し、戦争に負けたくせにと思っているところがある。平民であるクロムは、勉学に励む学生時代、悪役の貴族を倒す平民のストーリーを朗読したことがある。国語の時間だ。あれこそ教育という名の洗脳だと思う。
その夜、クロムは地下の実習部屋にいた。カラーボールの効果を確かめるためだ。もう意味がないとは思いつつ、せっかく買ったからだ。そして、実際に試してみたい気持ちがあった。
灯りがあるとよく見えないため、暗くしたまま手のひらサイズの玉を地面に投げつける。パンッと威勢のいい破裂音のあと、辺りに光の粒が舞っていた。正しくは舞っていたのを視認できるようになったのだが、その様子はまるでキャンプのときに見た蛍のように、動き回っていた。
「きれいだな・・・・・・」
もしあいつがここにいたら、どんなことを言うだろう。どんな反応を見せるだろう。そんなことが一瞬だけ脳裏によぎるが、バカバカしくなって顔を振った。
もう終わったことだ。
マナの視認効果はしばらく続いていた。ボーっと眺めていたら、ドアが開く音がした。
誰か入ってきた。クロムは顔を向けるが、暗くてわからない。しかし近づいてきて、その姿がマナの光によっておぼろげながら確認することができた。
「きれいね」
それはマーナだった。彼女はそれ以降、しばらくなにも言わず、クロムと一緒に自然に舞う光の軌道を眺めていた。
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