第6話-マーベル的な魔法

 僕は友人RとSと共に、叔母がプロヂュースを務めるテーマパークにやってきた。「魔法」をテーマにしたそのパークでは色々なアトラクションが楽しめるようになっている。ぱっと見れば観覧車に見える乗り物は魔力で動き、室内フロアには様々な魔道具が稼働している。

 今日はオープンの一日前。叔母に招待され、リハーサル中の施設を見学させて貰えることになったのだ。

「スゲーな……」

 三人でホールの中を見上げる。スタッフたちは忙しそうに走り周り、指示があちらこちらに飛び交っていた。

「あら、来たのね」

 と僕たちに話しかけてきたのは、ジュラシックワールドの叔母さん(名前忘れた)的な僕の叔母さんだった。レディーススーツに身を包み、笑みを浮かべている。

「明日オープンなの。今日は好きなとこ見て回っていいわよ」

 目の前では観覧車の試運転が行われていた。広いとは言え、ホール内に設置するものではないと思うが、叔母には何か考えがあるのだろう。そう思い、追及することをやめた。

 観覧車の調整はツナギを来た中年の男がしていた。無気力そうな目でスパナを握り、ボルトを締めている。

「あっ、そうだ。この紙なんだけど……」

 そう言って、僕は丸められた厚紙を渡された。

「ちょっと裏行って「刷ってくれ」って言ってきて」

 それ、このテーマパークで使える紙幣になるの、と叔母は言う。そんなものを子供に持たせていいのか。と思いつつ僕はそれを受け取った。

「わかった。裏に行けばいいんだね」

「ええ、よろしくね」

 じゃあ、とRとSに叔母は視線を移した。

「二人は好きに見てていいわよ。んー……そうね。あそこのDJとボイパでもしてきたら?」

 叔母がそう言ったワケは、僕がRがボイパが得意と話したことがあったからだった。Rはマイクを渡され、DJの元へ駆け寄っていった。

 残されたSは観覧車に乗りたいといいだし、試運転に乗せて貰えることになった。

「じゃあね」

 と裏に向かう途中、Rがノリノリでボイパを始め、DJすらも凌駕していたのは、驚いた。Sは無邪気にはしゃいでいた。

 僕は裏道を抜け、スタッフ専用の通路へ入る。大道具制作室の扉を見つめ、そこへ入った。

「あの……叔母さんが、これを紙幣にしろって……」

 二、三人いたスタッフの中で、ちょっと小太りのおばさんに話しかけた。

 六十過ぎたくらいの白髭のおじいさんは、僕を見て穏やかな笑顔を浮かべていた。

「おや、あの人の甥っ子か。そう言われれば似てるところもあるような……」

 などというが、僕は黒髪で、叔母は金髪だ。日本人である僕に、アメリカ人寄りの骨格である叔母と、似ているはずがなかった。

「はぁ、どうも……」

 から返事を返すと、おじいさんは頭を撫でてくれた。何と言い人なんだろう、と思っていると、扉が勢いよく開いた。

 入ってきたのは、黒いローブに身を包んだ男だった。

「そこに手を組んで伏せろ、今すぐだ」

「な、何者だ」

「我々はこのテーマパークを乗っ取りにきた。何者かどうかなど、貴様らが知る必要はない」

 早くしろ、という男は僕に気付いていなかった。おじいさんは僕に視線を向けると無言で扉のほうを指した。逃げろといいたいらしい。

 僕は無言でうなずき、逃げ出した。


 場所を移し、少女が逃げていた。金髪の少女は、背が低く「オーバーロード」のマーレのような容姿だった。

「待っておくれよ。お嬢ちゃん……」

 それを追いかけるのは、腰を曲げた老婆だった。老婆も男と同じく黒のローブを纏い、杖をついていた。

「私たち、魔術師からそう簡単に逃げられると思うなよ……」

 老婆は高らかに笑い、少女を追いかける。少女が逃げた先は袋小路で、教会を模したフロアだった。

 あるのは祭壇と、長椅子のみ、隠れるところなど一つもない。

 少女は祭壇の木枠を外し、下に逃げ込む。自らの身体を隠す様に木枠を直し、高鳴る鼓動と格闘していた。

「収まれ……ここならバレな――――」

 そのときだった。木枠が外された。身を固め、恐る恐る視線を向ける。

 その先には、満面の笑みを浮かべたしわくちゃの老婆の顔があった。

「みぃーつけた……」

 少女の顔が恐怖から絶望へと落ちる。既に涙は止まず、震えはさらに大きさを増した。

「出ておいで……いや、殺すには持ったない顔をしている。とっておきの棺に入れてやろう」

 そういって、老婆は顔を引く。あろうことか来た道を引き返していく老婆に、少女は救われた気がした。

 咄嗟にあらかじめ入れておいた切込みを探し、カーペットを捲る。

 そこには、四角形の切込みがあった。カタリと塞いでいた板を外すと、空間が現れた。そこは非常用に作っておいた通路だった。これを知っている人間は、あまり多くない。敵に漏れている可能性も少なくはないが、今は逃げる手段がなかった。

「ここなら……」

 少女は意を決し、飛び込む。元あった位置へ板を戻し、魔術でカーペットを戻した。

 最後に幻影の魔術を掛け、少女はその場を後にした。



ここまでが夢でした。

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