第5話-下痢とフィッシャーズと弓道
アスレチック施設に訪れた僕と弓道部の仲間は、それなりにはしゃいでいた。
ジャングルジムを駆け上がり、頂上付近までやってくる。そこには、木のテーブルが設けられ、店員もジャングルジムを使って移動するという変わった店があった。
「飯あるじゃん。食べてこうぜ」
誰かが口にした言葉に賛同した一同は、店内に入ろうとしていた。そんなとき、遅れて上がってきた僕は、猫が迷い込んでいるのを見つけた。
「あっ、猫……」
だが、それに気づいているのは自分だけのようで、誰も気に留める様子はない。我が物顔でジャングルジムを伝い、料理を狙おうとしていた。
「ちょっ……と、駄目だって!」
手で追い払おうとするが、猫は頑固にもその場に居座り続けた。僕ははたと困ってしまった。どうしようかと考えていると、そこへ〝とある人気のおさかな集団〟がやってきた。単体なら「さかなクン」だが、そうではない。
アスレチックとお魚集団。この二つが揃った時、召喚されるのは紛れもなく「フィッシャーズ」である。
「あれっ、店があるぞ!」
そういて一番に上って来たのは、たらこ唇が特徴の「シルク」だった。どうにも僕の夢は、ユーチューバーが多いらしい。この前は東海オンエアだった。
「おお、フィッシャーズだ」
本物だ、と感心していると、次にやってきたのはマサイ、後ろにモトキだった。
アスレチック系の動画は、彼らの象徴と言っていいほど有名だ。店があると分かっていて貸し切りにしないことに驚いた僕は、とりあえず一歩下がって見ていた。
と昼の部はここまで、続いて夜の部に移る。
夢ならではの、突然の場面転換である。
夜、宴会場に訪れた僕たち弓道部一同は、宴を楽しんでいた。他校の生徒も集まり盛り上がりを見せる宴会会場には、ざっと数百人の人が居る。
僕の弓道部が二十人とちょっとなので、少し大人数に感じた。
「そうだ。弓道やろうぜ」
「いいね。やろうか」
「おい。袴もってこい。対抗試合やるぞ!」
誰かが言い出したその台詞で、宴会会場は試合会場へと早変わりを遂げた。流石の宴会の席でまで弓道をやりたくなかった僕は、遠くからそれを見つめていた。
「弓道バカかよ……」
流石に引く。と一人ジュースを飲んでいると、そこへフィッシャーズが現れた。今度は召喚すらしてもいないのにだ。
「遅れてすみません!」
シルクが謝る。いや、遅れたも何も読んでないのだが……、と心の中で突っ込んでいると、猫が足にすり寄ってきた。
「いや、お前もいるんかいっ」
魚は食材(宴の肴的な)になるにしも、生はまずい。まして料理に毛が入ってしまったら大変だ。
「こら、お前の居ていいとこじゃないぞ」
僕が起こるが、猫は動かない。
「まあ、言ってもしょうがないか」
猫を外に出そうと持ち上げたその時、猫から不穏な音がした。具体的に言えば、「ぶりゅぶりゅ」とした音だ。
「ま、まさか……」
恐る恐る床を見ると、絵に描いたような「うんち」が転がっていた。
「うわぁああああ! この糞猫めっ!」
思わず猫を投げ捨てるが、猫は華麗に着地する。その間にも、うんちは飛び散り、辺りを汚した。文字通りの糞猫である。
「やばい、どうにかしなければ……」
幸い、誰も気付いていなかった。皆弓道とフィッシャーズに夢中なようで、僕の周りに人はいない。
「とりあえず、元凶の排除だ」
猫を試しに足でつつく。すると今度は液状のうんち、つまり下痢をした。コーヒー牛乳を溢したようなシミがカーペットにできてしまう。
「キモォ……」
それでも手で触る気力は無く、ひたすらに足で退け続ける。そのたびに猫は下痢を漏らし、床を汚した。
「あっ、俺もうんこしたいかも……というか下痢……」
不意に、排便の衝動に駆られた僕は、エントランスを糞まみれにした猫を置き去りにし、トイレへと駆け込んだ。
「は、入ってますかー!」
二つあるトイレには、先客が居た。ドアノブのところに赤いマークが見える。
「入ってまーす」
返ってきたのは、シルクの声だった。彼もお腹を下したらしく、トイレに籠っていた。もう一方は分からないが、返事は返ってこない。つまり、それほど切羽詰まって居いるのだろう。
「うっ、やばい。漏れる……」
下痢が抑えられず、僕は尻を抑えた。きゅっと引き締めるがもう遅い。ぶりゅぶりゅという音と共に、汚物を吐き出す――――寸前で目が覚めた。
時計は午前五時、尻を一応確認したが、下痢はしていなかった。ほっと一安心した僕はもう一度眠りについた。
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