第2話

私にとって、家族は最も心を許すことのない存在だった。

父は働かず、朝から酒をあおるアル中暴力男。

母は子供二人を養うために自宅を下宿にして、朝から晩まで働きどおし。

兄は父を嫌って、自分は父親のようには絶対ならないと、必死に勉強をしていた。

そして、兄と六つ違いの私は、父と母の顔色を見る子供だった。

母は父へのストレスを私に、厳しい躾でぶつけてきた。

たとえば、学校で悪い点数をとって帰ってくると、ビンタは序の口。

機嫌の悪い時は、包丁が飛んできたこともあった。

その度に、私は必死に謝って謝って、許しを請うてきた。

私が家で唯一、落ち着ける場所はトイレだった。

トイレは、狭い空間で、鍵を閉められるから。

つまり、私にとっての安全エリアなのだ。

そして、母のご機嫌をとろうと必死だった。

家の手伝いは率先してやった。

母に何か話しかける時には、こう言ったら母はどう思うんだろう?

母が喜ぶには、どういう風に話せばいいんだろう。

そんな母への配慮に少しずつ小さな嘘が織り交ぜられるようになっていった。

嘘で身を守る術を覚えたのが8歳の夏だった。

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嘘に憑かれた女 花水木 @yuzu0603

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