第3話

気持ちなんて無い、気持ちいいのかもよく分からない。煮るなり焼くなり好きにしろ。されるがままだった。その日、愛が無くても恋が無くても、身体だけで繋がることが出来ると知ってしまった。


「少し眠りたい」

彼はそう言って静かになった。さっきまであんなに五月蝿かったのにもう寝息をたてている。私は暇を持て余したので、部屋の中を物色した。机の上には文房具と仕事の書類が散乱していた。きったねえ文字。文字が汚い奴はセックスもおざなりなのか、納得納得。壁にはこれまた汚い手書きで書かれた、偉人の名言があちこちに貼られていた。

『明日に延ばししてもいいのは、やり残しても死んでもいいことだけだ。パブロ・ピカソ』

自己啓発本、筋トレのマシーン、豆乳イソフラボン入りの化粧水。俗に言う、意識高い系ってやつか。なんかつまらない。

一通り漁ったら腹が減った。恐る恐る、彼の鼻をつまんでみると、苦しそうに目を覚ました。生きてた。

「ん...なに...」

「お腹減った」

「...ごめん寝かせて...」

「コンビニある?」

「すぐそこにファミマ...」

「分かった」

納豆巻きとおかかおにぎりと焼きプリン。無味乾燥な薄暗い部屋で食べる飯は、味なんてしない。彼は寝ながら時々、咳き込んだ。私は何も言わず背中をさすってあげた。1人でケータイゲームをするのもすぐ飽きて、日が暮れた。部屋の隅でひっそりと眠った。


「ねえ、申し訳無いけど、」

2時間後、私は彼の謝罪で目覚めた。

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