第2話

そっと節のある長い指が、胸に沿わされる。

「っ、」

申し訳程度に両手で胸を守る。どうせ全部やられちゃうのは分かっているけど。

「だめ。手、どけて?」

手首を枕元に抑えつけられる。首元から始まる丁寧な愛撫。私は今から、初対面の人間に犯されるんだと思い知る。


その男と知り合ったのはとある出会い系サイトだった。私は、この春に学校を卒業して社会人になった。毎日会社と自宅の往復だけ繰り返して、なんで生きてるのかもよく分からなくなっていた。そんな冴えない私でも、ネットにあざとい自撮りをあげれば毎日誰かが見てくれる。メッセージをくれる。LINEを交換できる。寂しさが紛れた。そしてそんなある日、LINE相手のひとりから、文字通り「出会」わないかと呼び出されたのだった。


写真を見る限り、整った顔立ちはしていた。色が白くて鼻筋がすっと通っていた。歳は10個も上だったけど、LINEでのチャットや電話はけっこう盛り上がっていて、あまり気にならなかった。


たしかに会おう、と誘われてうんと返事をした。一緒にご飯を食べたり、買い物したり、健全なデートができるもんだと思っていた。こんなはずでは無かったと後悔する自分と、日常では有り得ない状況に興奮している自分がぐちぐちと混ざって気持ち悪い。

「はぁ...はぁ...すごい興奮する...いつからこういうこと期待してたの?」

あまりにも早すぎる展開に、何て答えればいいか分からなかったので無視した。私以上に彼はとても感じやすかった。彼の唇が私に触れる度、彼の腰がびくん、びくん、と震えていた。自分でしていることに自分で興奮している彼が、なぜか愛おしくてたまらなくなった。そんな義理は無いのだけれど。

「はぁはぁっ...あぁっ...」

彼の切ない声が漏れる。

「ごめん、俺声出ちゃうんだよね。ひかないで...」

「ううん、可愛い声だよ」

なんて、大人の女らしいこと言ったけど、実は男の喘ぎ声を聞くのもセックスも初めてだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る