第18話 文章問題
そっと立ち止まる。
色々考えことをして、頭の中が一杯になってくると、私の足は自然と歩くことをやめる。
癖というか、身体が自然とそうなってしまうようで。
「ほら~、置いてくよ?」
彼女の声で、ふと意識が現実に戻される。
気づけば、また私は立ち止まっていた様で、一緒に歩いていた彼女とは幾何かの距離がある。
「ごめん」
考えていた何かを頭の片隅に追いやって、小走りで彼女に追いついた。
*
大きな窓から、オレンジ色の光が差し込んでいる。
私は、Dポップをつまみながら、宿題を消化していく作業に没頭していた。致し方なく。
向かいでは、アイスコーヒーをストローでちゅーと吸い上げる彼女がいる。手元には同じくDポップと宿題。
互いに一言も言葉を交わさない。夕方の騒がしい店内で、私達二人の間だけ静かな時間が流れていた。
わら半紙のプリントには、とある男女の恋模様が文字になって並んでいた。
どうやら少し前に放送していたドラマの原作小説らしい。
過去問とかだと小難しい話ばかりなのに、随分と今風な問題だ。先生の手作りなんだろうか。
恋愛なんてものは、私にとってインスタやFacebookの中にしか存在しないもの、という感覚だった。
同級生にも、カレシがどうだカノジョがどうだという話はよく聞く。
でも、私には恐らく関係の無いもモノ、感情。
人付き合いがあまり得意ではない。そんな私の目の前にいるのはいつも彼女。
女女では、恋愛は生まれない、と思う。
たぶんそんな気がしても、それは恋愛じゃない、たぶん。
さっき頭の隅に追いやったはずの考え事のせいで、プリントの上を歩いていたペンは立ち止まっていた。
*
宿題にある程度見切りが着いたところで、私達はミスドを出た。
夕焼けの名残もすっかりなくなって、辺りを照らすのは街灯ばかりになっていた。
家までの方向が同じなので、彼女はまだ隣にいる。
考え事はまだ頭の大部分を占めているが、いつもの様に立ち止まってはいけない、と考え事が私を駆り立てる。
「……ねぇ」
「ん?」
「……手」
「て?」
「…手、繋いでもいい?」
「んー、別にいいよ」
意外にもあっさりお許しが出てしまった。
彼女は、それまでと変わらず横を歩いている。
手を繋いでいいか、そんなことを口走ったくせに、なぜ行動に移すのは躊躇ってしまうのか。
生唾を飲み込むと、そっと彼女の手に向かって、自分の手を伸ばす。
立ち止まってはいけない。
今にも動かなくなりそうな足に負けじと、縋り付くように彼女の手を握った。
初めて握った彼女の手は、思ったより冷たくて、でも暖かくて。
そして、私の中の何かも、その握った手以上に、暖かく、熱くなっていく。
暖かい感情が溢れていく。
己から溢れ出てくる正体不明の感情はなんなのか、2文字以内で説明しなさい。
そんな問題にも答えられない。
私はまだ子供だ。
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