第15話 花言葉

花言葉


花について調べるたびに、必ず目にするその言葉。

誰が始めたのかわからない、その謎の習慣は、時に人間関係にも顔を出してくる。

私が通っているのが女子校だからなのだろうか。


何かにつけて、豆知識の様にひけらかすのはあまり好きではないけれど。

シーグラスを拾い集める様に、ひとつ、ひとつ、心に仕舞っていくのは、好き。



率直に言うと、私は彼女が好きだ。

友人的な意味ではなく、恋愛的な意味で。


入学当初、一番最初に出来た友人が彼女だった。

自分で言うのもアレだが、私は交友関係を構築するのが得意ではない。

一番最初のクラスで、席が前だという、至極単純な動機で声をかけて、その時から途切れる事なく今に至る。


彼女は、性格はサバサバしているけれど、とても綺麗な人だった。

少し遠巻きにいる彼女を、ずっと目で追いかけている自分に気づくまで、そこまで時間はかからなかった。

何故、彼女の事を好きになったのかは、わからない。

具体的な言葉なんて、何一つ浮かんでこない。



帰り道、人通り少なくなった、校門までの通り道。

彼女に訊いてみた。


「あなたの事が好きだ、って女子に告白されたら、どうする?」


そもそも、こんな事をストレートに聞くなんて、その反応を見て場合によってはこれから私が言います、と予告しているような気もしたが、気のせいだろうか。


ややあって、彼女が口を開いた。


「――マーガレットの花言葉ってさ、『恋占い』なんだってな」


彼女は、通路を飾るように続いている大きな花壇を見てそう言った。

そのプランターには、様々な色のマーガレットが咲き誇っていた。

彼女はその中で、白い花を愛でる様にそっと撫でる。

返事のイエス・ノーは、わからない。


「私は正直、恋愛感情をどう受け止めればいいのか分からないんだ。それは、女子に限らず、男子でも」


彼女の独白を、受け止める。


「よくある、花びらを一枚ずつちぎってさ、好き嫌いってあるじゃない。そういう気持ちを上手く受け止められない私の代わりに、そうやって決めてくれたらいいのになぁ、なんて思ってるくらいだ」


受け止める。


「だから、もし今この場でお前に好きだ、って言われたとしても、私にはそれを受け止める事ができない……と思う。友達としては、もちろん好きなのだけれど……」


マーガレットの花言葉、真実の友情。

心の中で呟くと、シーグラスに、ぴしり、とひびが入ったような、そんな気がした。



マーガレットの花言葉って、まだあるんだよ。

それはね。


「秘めた愛」


やっぱり、この気持ちは、秘めたままにしておこうか。




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