『砂の器』 黒澤明でさえ正当評価できなかった名邦画

 松本清張原作、山田洋次脚本作品。

 監督は、渥美清版『八つ墓村』、美空ひばり版『伊豆の踊子』を手がけた野村芳太郎。

 あの伝説的ホラー映画『震える舌』も、野村監督の作品である。



 東京の蒲田にて身元不明の惨殺死体が発生される。


「カメダ」という謎ワードを追い、今西・吉村刑事は東北地方を彷徨う。

 結局手がかりが掴めないまま、帰宅の途につく。


 直後、白いものを紙吹雪のように電車の窓から巻いている女性を、新聞記者が目撃。ホステスだという。

 捨てた紙吹雪と思われた者は、血のついたTシャツかも知れない。

 だが、ホステスは無関係を主張する。


 捜査が難航する中、被害者の身内が名乗り出る。

 被害者は岡山出身の元刑事で、島根の駐在だったらしい。

 言語学者によると、島根には亀嵩カメダケという地名があるという!

 

 被害者は伊勢にも顔を出していて、映画館を訪れている。

 映画館長の渥美清(!)に、被害者の足取りを調べてもらう。

 被害者は映画を見ていたわけではない。

 館に飾られていた写真に写る男性と会っていた。


 男は和賀英良わがえいりょうという。


 ホステスが身元不明の変死体で発見され、和賀がホステスのアパートを訪れていたことがわかり、一気に捜査が進展。

 和賀が捜査線上に浮上する。

 

 彼はハンセン病を患っているせいで離婚した乞食の息子だ。

 父と子は本籍地の石川県から、徒歩で日本中を物乞いで周っていた。


『砂の器』の原作を知らなくても、お遍路姿であぜ道を練り歩く親子のシーンだけ知っている人は、多いのではないだろうか。


 岡山で被害者に面倒を見てもらっていた。

 が、家出して大阪の家へ転がり込む。

 そこで音楽を学び、今では立派な指揮者に。


 だが、被害者に発見され、世間に障害をバラされると思い、殺害に至ったのではと、推理する。

 

「人情味のある被害者が、よかれと思って出した提案が、かえって徒になった」というのが真相だったが。


 ラスト、コンサート会場へ和賀の逮捕に向かう刑事二人。


 吉村刑事は、今西刑事に尋ねる。

「和賀は父に会いたかったのでしょうか?」

 今西刑事は返す。

「彼は音楽を通じてしか、父親と会えないんだ!」


 和賀の過去に触れたからこそ出た、魂の台詞だと思う。




 ちなみに、映画監督の黒澤明監督は、本作のシナリオを一蹴したという。

 冒頭の東北をうろつくシーンや、和賀の愛人が窓から破ったTシャツを紙吹雪のように捨てるシーンを、「無駄なシーン」だと断じた。


 だが、野村監督は黒澤監督の言葉を無視し、シーンを強行した。


 結果、映画は大ヒットして、黒澤監督は何も言わなかったそう。


 このように、名監督でさえも見誤った、凄みのある映画である。

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