『上島ジェーン』 ないたありよし

 上島竜平、四七歳。彼はある夢を抱いた。

「サーファーになりたい」

 まったく初心者の上島氏が、後輩有吉氏を伴ってサーフィンを習う。


 ここまで聞くと、オッサンが頑張るドキュメンタリーか、と思うだろう。

 かくいうオレも、こういった話は好きだ。


 ところが、どうも上島氏の様子がおかしい。

 まったく海に入ろうとしない。

 ウェアを褒められ、ゴルフ場にまでボード片手について行く。

 食事中、先人たちが語るサーフィンの怖さ、楽しさを聞いていない。


 よく見ると、これはドキュメンタリーではなかった。

 それが分かったのは、お目当ての女性と、海辺でずっと語らっているシーン。

 なにか、女性の方が芝居がかっているのだ。


 ウィキを見ると、出演者の名前も役名なのだ。

「ああ、コントかいな、これ!」

 そう見ると、上島氏ののゲスな演技が頷けた。


 取り返しのつかないシーンなどが結構出てくるので、そういう笑いの取り方を見るのがイヤな人はキツいかなー。


 そう思っていたが、そうでもない。

 このゲス演技には、ちゃんと理由があったのだ。


 約一〇年前、二〇〇九年の作品。有吉氏は今より売れていない。

 先輩上島に対しても、低姿勢だ。


 ただし、有吉氏は上島氏とは違い、サーフィンを真面目に教わる。

 話の中盤、上島氏は有吉に対し「できもしないのに、みっともない」という。がんばってますアピールだろ、というのだ。

 無骨に打ち込む有吉氏との対立が決定的になった。


 結果、有吉氏は上島氏より先に、ボードに立つことに成功する。

 そのときの顔は、実に清々しい。


 有吉氏が頑張れば頑張るほど、上島氏がクズに映る。

 そうなると、どうだ? 有吉氏の好感度は上がるわけだ。

 事実、この映画以降、有吉氏はブレイクしている。


 もし、これら一連の流れが、意図的だったとしたら? 

 

 この映画を

「上島氏を主人公と思わせておいて、有吉を立てる為に作られた映画」

 だと思えば、全部の辻褄が合うのだ。


 つまり、上島氏は「ないたあかおに」の青鬼だ。


 上島氏は、この映画にて、第24回東スポ映画大賞(2015年)主演男優賞を受賞している。

 ゲスな演技をしているのに、だ。

 みんな、あれが有吉氏を立てる演技だと分かっているのだ。


 ちなみに、続編の『上島ジェーン ビヨンド』という作品もある。

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