第13話 告白

Side ユキ

どうしよう?

このままじゃダメだよね。

目の前で泣きだした有希子に通りを行き交う人たちが視線を投げる。

確か近くに小さな公園があったのを思い出して声をかける。

「歩ける?」

頷くのを確認して彼女の手を取って歩き出した。


おそらくこの辺の住宅の子供のための公園だろう。

滑り台とブランコが申し訳なさそうに置いてある。

ブランコに彼女を座らせた。

有希子でもこんなに泣くんだなと両手で顔を覆って泣く彼女を見ていた。

「好きだったのよ」

ひとしきり泣いた後ポツリと言った。

「本当に好きだったのよ。須藤君が。3ヶ月付き合ったら好きになって貰える自信があったの。でもダメだった」

「お似合いだと思うけど」

「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」

お世辞なんかじゃなくお似合いだと思った。だから心にドス黒い渦が巻いていた。

「知ってる?腕を組もうと左腕を取ると右腕でさっと払われるの。手を繋ごうとすると手を引っ込めるのよ。電話もメールも私から。須藤君からくることはないの。二人でいてもいつも一人だったのよ」

また、ポロポロと涙を零す。

「僕ので良かったら使って」

ハンカチを差し出した。

「優しいのね。あなたを好きになれば良かった」

答えようがなくて曖昧に微笑んだ。


「誰かを好きになるってワクワクしたり、ドキドキしたり楽しい事ばかりじゃないのね。こんなに苦しいなんて思わなかった」

「そうだね」

心の中に巣食う闇を知っている。

「ねぇ、いつから?いつから須藤君の事が好きなの?」

「え?」

固まってしまって何も言えない。

「どうして…」

声が震える。

どうしてわかったのだろう?誰も気付いていないと思ったのに。


「どうして?私と同じ目をしているからよ」

須藤君が好きで好きでしょうがないという目。

誰にも渡したくないという独占欲に歪んだ目。

「いつから好きなの?生まれた時からなんて言わないでよ」

僕は大きく息を吐いた。

「この胸に渦巻くものが恋愛感情だと気がついたのは君とつきあうと聞いたときかな」

「ふう〜ん、男同士なのにどこが好きなの?」

男同士なのに。

その言葉が胸を抉る。

「おかしいよね。でも、好きなんだ。

全部、全部好きなんだ。怒った顔も、笑った顔も、泣いた顔も。人当たりが良くて誰にでも優しいけど、ああ見えてけっこう面倒くさいんだよ。すぐ拗ねるし。そんなところも可愛いと思ってしまうくらい」

言ってしまって恥ずかしくなった。

きっと呆れられたよね。

けど、彼女はフツと笑った。

その時、ジャリっと砂利を踏む足音がした。




Side トオル



叩かれた頬が痛い。

彼女を傷付けてしまったのだからこの痛みは甘んじて受けるべきだと思っている。

でも。

窓の外、泣いている彼女を慰めているのだろうユキが見える。

ユキの想いが叶うならそれが良い。

このままハッピーエンド。

でも、

そんなのは嫌だ!


勢いよく立ち上がると二人の後を追った。

ユキが食べたいと言ったからカレーを作れるようになりたいと思った。

ユキが好きだからハンバーグをふっくら焼けるようになりたいと思った。

いつだってユキのヒーローでいたいと思ったから勉強も部活も生徒会も頑張った。

それなのに、他の誰かの手を取るなんて。

そんなのは嫌だ。


ブランコに腰掛けて話をしている有希子と目があった。

首を振って来るなと制された。

「ねぇ、いつから?いつから須藤君の事が好きなの?」

「え?」

オレの事が好き?

「どうして…」

ユキの声が震える。

「どうして?私と同じ目をしているからよ」

有希子と同じ目?

いったいどういうことだ? 

「いつから好きなの?生まれた時からなんて言わないでよ」

ユキが大きく息を吐いた。

「この胸に渦巻くものが恋愛感情だと気がついたのは君とつきあうと聞いたときかな」

あぁ!

「ふう〜ん、男同士なのにどこが好きなの?」

男同士。

その言葉が胸に突き刺さる。

でも、ユキは頬を染めて話だす。

「おかしいよね。でも、好きなんだ。

全部、全部好きなんだ。怒った顔も、笑った顔も、泣いた顔も。人当たりが良くて誰にでも優しいけど、ああ見えてけっこう面倒くさいんだよ。すぐ拗ねるし。そんなところも可愛いと思ってしまうくらい」

オレは目を覆った。

ユキがオレの事を可愛いと思っている。

そんなユキをオレは可愛いと思う。

今すぐ抱きしめたいと思った。

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