第12話 彼女 ③

Side トオル


オレの腕を掴んだ有希子の手を外したらしい。

らしいというのは後から有希子に言われたから。自分では覚えていなかった。

でも、そのことは彼女の自尊心をいたく傷つけたようだ。

放課後あのカフェに呼び出された。

そう、ユキと幸せに浸っていたあのカフェ。

しかも、席まで一緒だ。

パフェまで頼んで。

嫌がらせ以外の何ものでもない。

なんだか思い出を汚されたような気がした。

スプーンでパフェを掬うとオレに差し出した。

もちろん、オレは食べない。

「ほらね」

そう言うと自分で食べた。

「気づいてる?」

何が?

「私が腕を組もうとすると手を外すのよ。今朝も」

滝川君の肩は抱いて歩くのにね。と目を伏せる。

「雨に濡れないようにだ」

声が強張っていると自分でもわかる。

「滝川君のこと好きなんでしょう?」

オレは肯定も否定もできずにまっすぐ見つめてくる有希子を見た。

有希子がチラッと窓の外を見た。

つられて窓の外を見るとユキがこっちを見上げていた。

不安げな顔で。

この席は外から見えると言っていたっけ。

待ってろ、いま有希子と別れるから。


ここに来る前、ユキに会ってきた。

「今から有希子と別れてくる」

「なんで?」

「はじめから、3ヶ月の約束だから。少し早いけど」

ユキの目が大きく開いた。

信じられないと言うように。

「大丈夫だから」

そう言ってユキの頭をポンと撫でた。

有希子がフリーになればユキにもチャンスがあるかもしれない。

そう思った。


そんなに有希子の事が好きなんだな。

少し寂しい。

そう思った時、左頬に平手打ちをくらった。

「振ったのは私だから!覚えておいて」

精一杯の有希子の強がり。

出て行く彼女を追いかけもしなかった。




Side  ユキ


「ユキ』

放課後、トオルに呼び止められた。

できるなら顔をあわせたくないのに。

トオルが大きく息を吐いた。

そして、

「今から有希子と別れてくる」

どうして?有希子の事が好きなんでしょう?

「なんで?」

声が震える。

「はじめから、3ヶ月の約束だったから。少し早いけど」

心臓がバクバクする。

喜んでいる?トオルが彼女と別れるのを喜んでいる自分がいる。

どうかトオルに気づかれませんように。

「大丈夫だから」

そう言って僕の頭をポンと撫でる。

何が大丈夫なの?

悲しそうな顔しているくせに。


トオルの後を追った。

あのカフェのあの席に二人がいた。

有希子が僕に気が付いた。

そして、トオルも。

その瞬間有希子がトオルの頬を叩いた。

トオルからの別れ話に有希子が怒ったのだと思ったけど…

店のドアが開いて有希子が駆けてきた。

一直線に僕の前に来ると、

「振ったのは私なんだから。私から振ったんだから!」

そう叫ぶとわぁんわぁんと泣きだした。

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