第11話 すれ違い

Side トオル


オレの部屋からユキの部屋が見える。

好きなコの部屋が見えるのはある意味残酷だ。

昨日はユキの部屋を見ながらまんじりともしない一夜を過ごした。

ユキの部屋は朝になってもカーテンは閉じられたままだった。

よほど具合いが悪いのだろうか。

帰りに寄ってみよう。

と、考えていた。


学校に着くと、昇降口にユキがいた。

昨日の後輩くんと何やら話をしている。

顔色も…悪くない?

なんだか、裏切られたような気がした。 

何なんだよ。眠れないほど心配したのに…

胸の中でドス黒いものが渦巻いていく。

「随分、仲が良いんだな」

自分でも驚くドスのきいた声だった。

慌てたユキがオレに近づいてくる。

「お、おはよう、トオル。昨日は心配かけてゴメンね。もう、大丈夫だから」

オレを見るユキの顔が少し赤い。

やっぱり熱があるんじゃないだろうか。

「熱があるんじゃないか?」

ユキの額に触れようと手を伸ばした。

「やっ」

「えっ」

やっ?

やだ?オレに触られるのが嫌?

ユキの顔が益々赤くなった。

熱が上がってきたのだろうか。

とにかく、保健室へ連れて行こう。

ユキの手を取った。

「だ、大丈夫だから…」

消え入りそうな声でいうとオレの手を払った。

何なんだ、また、拒否られた。

いままでこんな事はなかったのに。

「あっ」

と小さな声を上げ、ユキは顔を伏せソワソワと落ち着かなくなった。

振り返ると、有希子がいた。

ため息がでた。

やっぱり、ユキが好きなのは有希子なんだな。

確かに男なら惹かれてしまうんだろうな。

キレイな顔立ちと、いるだけでその場が華やかになる。

オレは恋愛感情は持てなかったけど嫌いかと言われれば嫌いではない。

「朝から仲が良いのね」

相変わらず嫌味だ。

「えっと、先に行くね」

俯いたままのユキがパタパタと駆けていく。

追いかけようとして有希子に腕を掴まれた。

「待って。一緒に教室へ行きましょう」



Side  ユキ


もしかして家の前でトオルが待っているんじゃないかと思ったけど、流石にまだ、いなかった。

トオルに捕まりたくなくて、いつもより早く家をでた。 

昇降口で、昨日の彼、斉藤慎一クンが待っていた。

「おはようございます。昨日は、斉藤先輩に何もされなかった?」

「何もって何?」

後輩クンはニヤリと笑った。

「壁ドンとか?」

吹いてしまった。

「まさか。あれから顔を合わせてないよ」

その時だった。

「随分、仲が良いんだな」

ドスのきいた声がした。

トオル?しかも超機嫌が悪い?

慌ててトオルに近づいた。

「お、おはよう、トオル。昨日は心配かけてゴメンね。もう、大丈夫だから」

心臓がバクバクして、自分でも顔が赤くなるのがわかった

「熱があるんじゃないか?」

トオルが額に手を伸ばしてきた。

「やっ」

「えっ」

やっ?

顔を背けてしまって慌てた。

もう心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいバクバクいっている。

多分、耳まで真っ赤だ。

どうしよう?

「保健室へ行こう」

トオルが手に取られた。

「だ、大丈夫だから…」

お願いだから触らないで。

やっとのおもいで、消え入りそうな声でいうとトオルの手を払った。

トオルの悲しそうな顔。

ゴメン。

そんににされたら、期待してしまう。

「あっ」

その時だった。

有希子が登校してきた。

彼女がいると周りの空気が変わる。

何もなかった空間が華やかになる。

目があってしまった。慌てて目をそらしたけど、ソワソワと落ち着かなくなった。

不機嫌そうに眉ををひそめる。

そんな姿もキレイだと思う。

トオルが好きになるのも仕方がないと思った。

二人が並ぶとお似合いだ。

見たくない。

「朝から仲が良いのね」

きっとボクに投げられたセリフ。

邪魔だと言われているみたいだ。

その場にいたくなくて、

「えっと、先に行くね」

と言って走りだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る