第10話 不安

Side トオル


ほんのちょっとの間だと思った。

「ほっといてよ」とユキに言われ呆然として動けなかったのはほんのちょっとだと思った。

思ったのに…

慌てて追いかけた。

どこにもユキはいなかった。

すぐに追いつけると思ったのにな。



ユキの行きそうな場所を回ってみたけど見つからない。

電話にもでない。

メールにも返信なし。

ラ○ンにも既読がつかない。

何やってんだよ。

そして、電源が切れた。

夜になってもユキの部屋に明かりがつかなかった。


電話が鳴った。

当然ユキからだろうと思って確認もせずにでた。

「バカ野郎!ほっとけと言われてほっておける訳ないだろう!」

『え?』

女の声だった。

慌てて時計を見ると有希子から電話がくる時刻だった。

やってしまった。

『滝川君にほっておいてくれとでもいわれたのかしら?』

「いや…」

誤魔化しようがないよな。

『そろそろ潮時かしらね』

「…そうだね」


「3ヶ月で良いから付き合って」

きらきらと輝く瞳で彼女は言った。

真っ直ぐにみつめる姿は綺麗だと思った。

好きになれるかもしれない。

そう思った。

彼女は気が強くて、自尊心が高くて、負けず嫌い。周りから女王様と呼ばれていた。

毎晩、決まった時間にくる電話。

おはよう、お休みのメール。

初めは新鮮だったけど、だんだん面倒くさくなってきた。

オレが折れれば良かったのかな。

お互い負けず嫌い。顔を合わせれば、売り言葉に買い言葉で言い争いになってしまう事が多くなった。

ユキとならこんなにはならないのにと思ってしまう。

結局、有希子を好きになるどころか、ユキじゃないとダメだと思い知らされた。

辛い時、悲しい時側にいて抱きしめてやりたい。

そう思うのに出来ない自分が情けない。

ユキ、どうしてる?



Side ユキ


どうしよう、どうしよう。

こんな顔、トオルには見られたくなかった。

蒼い顔をしていると言っていた。

きっと嫉妬に歪んだ醜い顔をしているんだろう。

トオルの前ではいつも笑っていようと思ったのに。

馬鹿だよね。

ほっておいてくれと言ってもトオルは追いかけてくるはず。

昇降口、下駄箱の死角に隠れた。

案の定、トオルは追いかけてきて勢いよく昇降口を飛び出して行った。

トオルが戻って来ないのを確認して昇降口をでた。

今頃僕の行きそうな所を探しているだろう。

急いで家に帰ろう。

家の前にトオルがいる可能性もあるけど、その時はその時。


運良く家の前にトオルはいなかった。

具合が悪いから横になるからトオルが来ても部屋には上げないでと母さんに頼んで部屋に籠もった。

部屋に入るとすぐにスマホが鳴った。

トオルからだった。

もちろん、無視。

電話、メール、ラ○ンとあらゆる手段でスマホが鳴り続ける。

ああ、もう!

どうしてほっておいてくれないのだろう。

心配してくれているのは痛い程わかるけど。

今はトオルの顔が見れない。

僕を見て。僕だけを見て。

そう言ってしまいそうで。

自分が情けない。

ゴメンね。明日になったら、笑顔で、

「おはよう」

って、言うから。

今日はそっとしておいて。

スマホの電源を切った。

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