第9話 好敵手
Side トオル
真っ青な顔をしていた。どこか具合が悪いんだろうか。
急いで踊り場へ行った。
な、な、な、
何しているんだ?
信じられない光景があった。
ユキが後輩の男子に壁ドンされている。
しかも右の手首を掴まれて。
俯くユキに顔が近い。
オレだってやった事がないのに。
「何やってんだ?ユキが怯えている」
ユキの手首を掴む手をほどきながら言う。
ぶん殴らなかった自分を褒めてやりたい。
「先輩が笑うかと思って」
振り向いた後輩君は悪びれることなく言う。
「どうやってこの状況で笑うんだ?」
オレには聞こえなかったが後輩君が何か言った。
ユキには聞こえたらしく、プッと吹き出したかと思うと笑い出した。
「ほら笑った」
後輩君は自分の勝とばかりに身を翻して階段を上って行く。
「さっきの話、考えておいてね」
と、穏やかならぬ言葉を残して。
さらに、
「俺の事は慎ちゃんって呼んで」
と付け加えて。
「大丈夫か?何があったんだ?真っ青な顔していた」
ユキの頬に触れようとした。
サッとユキが顔をそむけた。
え?
「ほっといてよ!」
「待てよ」
なんで?今までこんなことなかった。
掴もうとした腕がすり抜けた。
追いかけることができずにその場に立ちつくした。
Side ユキ
「先輩、女王様に何か言われたの?」
僕の顔を覗き込むように後輩の斉藤慎一が立っていた。
「何でもないよ」
「先輩はいつも何かあっても何でもないって言うんだ」
え?
「須藤先輩の事で女王様に何かいわれたんだろう?」
タメ口になりジリジリと迫ってくる。
「なんて顔してるんだ」
これが壁ドン?
彼が右手を壁に付き顔を近付ける。
押し返そうとする右手を掴まれてしまった。
慌てて顔を背けると耳元で囁かれた。
「俺にしなよ。俺は彼女はいない。作らない」
「何を言ってるんだい?」
「だから…」
ああ、ダメ。
「何やってんだ?ユキが怯えている」
トオルが手首を掴む手をほどきながら言う。
「先輩が笑うかと思って」
振り向いた後輩君は悪びれることなく言う。
「どうやってこの状況で笑うんだ?」
後輩君がポツリ。
「馬に蹴られて死んでしまえ」
吹き出してしまった。
どうやらトオルには聞こえなかったみたいだ。
間の抜けたトオルの顔に笑いだしてしまった。
「ほら笑った」
後輩君は自分の勝とばかりに身を翻して階段を上って行く。
「さっきの話、考えておいてね」
と、穏やかならぬ言葉を残して。
さらに、
「俺の事は慎ちゃんって呼んで」
と付け加えて。
まるで、突然の嵐のようだ。
「大丈夫か?何があったんだ?真っ青な顔していた」
トオルが頬に触れようとした。
慌てて顔をそむけた。
あんな顔を見られてしまった。
どうしよう。
「ほっといてよ!」
「待てよ」
トオルに掴まれないように逃げた。
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