第8話 彼女②
Side トオル
登校するとチラッと浴びせられる視線が痛い。
ひそひそ話も気にいらない。
「そうなんだよ」
教室からユキの声が聞こえる。
女子と話しているらしい。
「トオルったら酷いだろう。子供扱いするんだよ。僕の方が早く生まれたのに」
そうなの。と女子の声。
「はい、あ〜ん。じゃないの?」
と誰かがきく。
「まさか。頭にきたから、トオルの口にスプーンをねじ込んでやったんだ」
それを聞いてな〜んだと、女子が散って行く。
どうやら昨日の様子を見られていたらしい。
見られていた事より、違うとわかっていたいても本人の口から違うと言われた事にへこむ。
「トオル」
オレをみつけたユキが寄ってくる。
声をひそめて言う。
「あの席はダメだよ。向いの通りから見えるんだって。奥の席がオススメだって」
「は?」
「昨日の、デートの下見だったんでしよ?」
ユキの中ではそういう事になってるんだ。
仕方がないけど、浮くれていた分落ち込んでしまう。
多分、有希子の耳にも入っているだろうな。
少しばかり頭を抱えた。
案の定、女王様はご機嫌斜めだった。
週に一度、校舎裏の部室棟にある生徒会室で有希子に物理を教えている。
それがきっかけで付き合うようになったのだけれど。
「もうあの店行ったわよね。あれは、下見の下見だったのかしら?」
「そんなんじゃない」
「じゃあ何かしら?」
あーあ。
なんでこうなるんだろう。
電話では上手く話せるのに、顔を合わせると喧嘩腰になってしまう。
「ミエミエなのよね。あなたのする事って。
いい加減、自分に正直になったら」
厭味ったらしい有希子の言葉で今日の勉強はピリオドを打った。
オレが先に出て、有希子が後から出てくるのを待って部室の戸を閉めた。
踊り場から真っ青な顔でこっちを見ているユキが見えた。
Side ユキ
登校したら、クラスの、女子に捕まった。
「昨日、須藤君とカフェであ〜んしてたんだって?」
いつの間に見られてたんだろう?
僕の疑問に気づいたのか一人の子が教えてくれた。
二階だけど窓際のあの席は向かい側の通りから見えるんだと。
「そうなんだよ。トオルったら酷いだろう。子供扱いするんだよ。僕の方が早く生まれたのに」
「お互いにあ〜んってしてたって」
「はい、あ〜ん。じゃないの?」
「まさか。頭にきたから、トオルの口にスプーンをねじ込んでやったんだ」
な〜んだと女子たちが散って行く。
そこへトオルが登校してきた。
「あの席はダメだよ。向いの通りから見えるんだって。奥の席がオススメだって」
女子から聞いたことを教える。
「は?」
トオルがキョトンとした顔をしている。
「昨日の、デートの下見だったんでしよ?」
そうだよね。そんなんじゃなきゃ行くわけないよね。
放課後、踊り場から何気なく校舎裏を見ると、生徒会室からトオルが出てきた。
「ト…」
声をかけようとして言葉を飲み込んだ。
トオルの後から有希子が出てきた。
胸がざわめく。
二人きりで何をしていたのだろう。
まさか?
胸の中でドス黒いものが渦巻いてくる。
「いい加減、自分に正直になったら」
いつの間に来たのだろう。
振り返ると有希子がいた。
「ミエミエなのよね」
何も答えられない僕に一瞥すると有希子は行ってしまった。
一人その場で立ちつくすしかなかった。
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