第5話 彼女

Side トオル


ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴る。

土曜日の夕方。いったい誰だろう。

「ユキ、出て」

早めに夕飯のカレーを作っていたのでユキにでてもらう。

が、戻って来ない。

仕方なく玄関へ行くと、そこには、不機嫌な有希子と、オロオロしているユキがいた。

まるで猟犬と睨まれた小動物だ。

「有希子?」

なんでと聞く前に有希子が勢いよく喋りだした。

「部活休んだって言うから様子を見にきたのよ。昨日、傘を貸してくれたから濡れて具合が悪いんじゃないかと思って。元気そうじゃない」

相変わらず挑戦的な物言いだ。

手には傘とスーパーの袋を持っている。

「カレーが好きだっていうから作ってあげようと思って」

不安げなユキと目があった。

「カレーなら今作っているところだから必要ない」

「なら、私が作る!」

そう言って中に入ってきた。

「おい!」

慌てて追いかける。


後から来たユキが荷物をまとめ始めた。

「トオル、帰るね」

「ちょっと待て。おまえ何考えてるんだ。華でも居るならまだしも二人きりはまずいだろう」

帰ろうとするユキを捕まえて座らせるが数学に集中できる訳もなく、カレーを作る有希子を眺めた。


美味しいのか不味いのかわからないカレーを流し込んだ。

「ユキ片付けておいて。バス停まで送ってくる」

有無も言わさず有希子を引っ張っていった。


「なんのつもりだ?」

「なんのつもりって…あなたこそなんのつもり?昨日のあれは何?」

「バス通の彼女がバスを降りても濡れないように傘を貸してやった。何か問題でも?」

「あるわよ。あなたと相合い傘で帰るのは私よ。覚えておいて」

「わかった」

「彼の首筋…」

「イタズラしただけだ」

ユキには言うなと睨みつける。

「…三ヶ月だったよな」

「そうよ」

“三ヶ月でいい付き合って欲しい”

そう言われたのは数週間前。

断る理由もみつからず了承したけど、なんだかめんどくさい。

バスの中から有希子が睨んでくる。

笑顔で手を振ると、満足そうに手を振ってきた。


はぁ、疲れる。



Side ユキ


ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴る。

土曜日の夕方。いったい誰だろう。

「ユキ、出て」

早めに夕飯のカレーを作っていたトオルに言われて玄関へ行きドアを開けるとトオルの彼女の有希子が立っていた。

「なんであなたがいるの?」

怒っているみたいだ。

「えっと、家が近くて、あの、数学の勉強をしてて…」

迫力に負けて上手く喋れない。

どうしようと思っているとトオルが来た。

「有希子?」

トオルがなんでと聞く前に有希子が勢いよく喋りだした。

「部活休んだって言うから様子を見にきたのよ。昨日、傘を貸してくれたから濡れて具合が悪いんじゃないかと思って。元気そうじゃない」

心配しているようにはきこえないのはきのせいだろうか。

手には傘とスーパーの袋を持っている。

「カレーが好きだっていうから作ってあげようと思って」

トオルを振り返る。

カレーが好きなのは僕なのに、何故?

「カレーなら今作っているところだから必要ない」

「なら、私が作る!」

そう言って中に入ってきた。

「おい!」

慌ててトオルが追いかける。


僕がいるべきじゃないよね。

「トオル、帰るね」

リビングのテーブルに広げたプリントを片付け始める。

「ちょっと待て。おまえ何考えてるんだ。華でも居るならまだしも二人きりはまずいだろう」

トオルに腕をつかまれ座らされる。

数学に集中できる訳もなくカレーを作る有希子を眺めるトオルをみつめる。


三人で囲む食卓は楽しいものではなく、時々チラッと僕を見る有希子の視線が痛い。

会話らしい会話のない食事が済むと

「ユキ片付けておいて。バス停まで送ってくる」

そう言って、トオルが有無も言わさず有希子を引っ張っていった。


後片付けをしながらため息がでた。

なんてバカなんだろう。お邪魔虫もいいところだ。

食事中に投げかけられる有希子の視線が痛かった。

首筋に手をあてる。

まさか、気づかれた?

さっさと帰れば良かった。

自己嫌悪に陥る。

また、ため息がでた。

なんていったっけ。ボルゾイだっけ?

上品な姿の猟犬。有希子はそれに似ている。上品で、姿形が整っていて男子の憧れの的の有希子とイケメンで女子から人気のトオルはお似合いで二人が付き合うのは当然といえば当然で。

今頃は二人で楽しく話しているんだろうな。

二人の姿を想像すると胸が痛い。

モヤモヤした感情。これって嫉妬?

こんな感情いらなかったなぁ。

ずっと幼馴染のままで良かったのに。

一緒にいて笑ったり、喧嘩したりそれだけで良かったのに。


涙がこぼれてしまった。

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