第3話 邪な感情

Side トオル


「そういえば、おばさんと華ちゃんは?」

思い出したようにユキが言う。

「親父の所に行った」

たまの週末、母親は単身赴任の親父の所に小学生の妹の華を連れて泊まりに行く。

「あ!母さんに夕飯いらないって言わないと」

「連絡してあるよ」

良かったと笑う。

「なぁユキ、泊まって行くだろう?」

でも、とためらうユキに囁く。

「ちなみに、それもうちの親からおばさんに連絡済だから」

「トオル!」

ユキが拳を振り上げる。ひょいとかわしながらその手をとる。

「どんだけ心配性なんだか。高校生の息子一人おいていくのが心配なら出かけるなって」

正直な気持ちだった。

でもそのお陰でユキと一緒にいられるわけだから。



オレの部屋でゲームをする。

ユキはゲームが好きだがゲームが苦手だ。

何度やってもオレが勝ってしまう。

終いには、トオルのやるのを見てると言ってリモコンを置いてしまう。

それでも、ゲームをやりたがるから不思議だ。

今日もリモコンを置いてしまった。

しばらくすると、寝息が聞こえてきた。

「ユキ、寝たの?」

もちろん返事は無い。

抱きかかえてベッドへ寝かせる。

寝顔をみつめる。

そっと、唇を合わせた。

「好きだ」

耳にくちづけながらで囁く。

「僕も」

と言われた気がして驚いた。

寝言で返事をするなんて不意打ちだ。

いつからかな。こんな気持ちになったの。

多分、子どもの頃からだ。

ユキが他の子と遊ぶと面白くなかった。

オレ以外の子と遊ぶな!なんて言った事もあったな。

ユキの笑顔がみたい。ユキと一緒に居たい。

ユキと・・・

この気持ちは一時の気の迷いなのかな。

「ユキ、好きだよ」

そう囁きながら首筋に唇を這わせた。

胸を開けようとしてハッとした。

これ以上やったらさすがに犯罪だよなぁ。

ユキはオレの邪な気持ちを知らずに眠っている。

「ごめんな」

今は抱きしめて眠ろう。



Side  ユキ


「そういえば、おばさんと華ちゃんは?」

いつもならトオルに纏わりついているトオルの妹の華ちゃんがいない。

家の中が静かだ。

「親父の所に行った」

トオルのお父さんは単身赴任している。

そこへ時々、トオルのお母さんは小学生の華ちゃんを連れて行く。

中学の時からトオルは留守番。

と、いうことはもしかして?

「あ!母さんに夕飯いらないって言わないと」

「連絡してあるよ」

とトオルがニヤリと笑う。

「なぁ、ユキ。泊まって行くだろう?」

ん?

「ちなみに、それもうちの親からおばさんに連絡済だから」

やっぱり!

「トオル!」

無駄とは知りながら拳を振りあげる。案の定、あっさりと手首を掴まれた。

「どんだけ心配性なんだか。高校生の息子一人おいていくのが心配なら出かけるなって」

親としたらやっぱり心配なんだと思う。

けど、いつから決まってたんだろう。

今朝?昨日?

僕だけ知らずにいたなんて腹がたつ。

母さんも母さんだよ。


新しいゲームを買ったからゲームをしようと言うのでトオルの部屋へ行きゲームをする。

ゲームは好きだけど、トオルには敵わない。

ゲームだけじゃなくて何もかも。

時々、やんなっちゃう。

眠いから寝ちゃおう。

トオルの肩にもたれて寝てしまった。

「ユキ、寝たの?」

トオルの声がしたような気がするけど、ま、いいか。


夜中に目が覚めた。

目の前にトオルの顔があって驚いた。

そういえば、ゲームしていて寝ちゃったんだ。

トオルの寝顔。

しばらくぶりで見た。

こんなにまつ毛がながかったんだね。

恐る恐る触れてみる。 

ぐっすり寝ていてぴくりとも動かない。

人さし指で唇に触れる。

トオルはキスした事があるんだろうか。

彼女とキスするんだろうか。

本当ならここにいるのは有希子なんだろうな。

胸がイタい。

いつからかな、こんな気持ち。

多分、トオルに彼女ができてから。

ちょっとした気の迷いでいつかお互いの子供を見せあたったりする日がくるのたろうかか。

トオルの唇に唇を重ねた。

「ごめん、トオル。ごめん、有希子」


今はトオルの温もりを感じていよう。

  

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