第2話 胃袋を掴む

Side トオル


幸せな時間はいつまでも続かない。

その角を曲がれば家に着いてしまう。

ちょっとしたイタズラ心が湧いてきた。

「ユキ」

名前を呼ぶと弾かれたように顔をあげる。

「先に行く」

そう言ってユキを雨の中に残し傘を奪って走り出した。

ユキが抗議の声をあげながら遅れて走って来るのが見えた。


「ひどいよ、トオル!」

玄関を開けてユキが入ってくる。

案の定、びしょ濡れで。

「もう、濡れちゃったじゃないか」

睨む姿が可愛いと思う。

濡れているからと家に上がろうとしないユキをお姫様だっこして風呂場に連れて行った。

「ちょっと!降ろしてよ。トオルも濡れちゃうよ」

顔を真っ赤にして抗議してくる。

「大丈夫。オレもシャワー浴びるから」


「今夜ハンバーグだけど、食べる?」

「トオルの作るハンバーグ大好き」

そう言いながらも、トオルがシャワー浴びてるうちに自分が焼くといってキッチンに立つ。

焼きあがったハンバーグは・・・

「なんで?なんでこうなっちゃうの?」

トオルの焼いたのとは全然違うと

半ベソをかいている。

多めに作っておいて良かった!

「焼き方にもコツがあるんだよ。焼いてやるよ」

焼いてやると嬉しそうに食べる。

美味しい、美味しいと繰り返しながら。

そんな顔を見ると、また作ってやろうと思う。

女性が彼氏や旦那さんの胃袋を掴むとか言うけれど、オレはユキの胃袋を掴んでいるのかな?




Side  ユキ


角を曲がると家に着いてしまう。

残念と思ったら、「先に行く」と、トオルが傘を持って走り出した。

冗談じゃない。

土砂降りの雨の中慌てて追いかけたけど、追いつかない。

「ひどいよ、トオル!」

トオルの家の玄関を開けると澄ました顔のトオルが立っていた。

「濡れちゃったじゃないか」

恨み言を言うと、不敵に笑ったトオルにお姫様だっこされてしまった。

恥ずかしさで、顔が真っ赤になる。

「ちょっと!降ろしてよ。トオルも濡れちゃうよ」

「大丈夫。オレもシャワー浴びるから」

そう言って風呂場に連れて行かれた。


シャワーを浴びて行くと、キッチンでトオルが何か作っていた。

「今夜ハンバーグだけど、食べる?」

「トオルの作るハンバーグ大好き」

即答してしまった。

仕方ない。本当にトオルが作るハンバーグが大好きなんだから。

「シャワー浴びてきたら、僕が焼いておくから」

いつも作って貰うだけじゃなくてたまには自分でもと思ってハンバーグを焼いた。


「なんで?なんでこうなっちゃうの?」

焼きあがったハンバーグはトオルが焼いてくれるハンバーグには程遠く、焦げて固かった。

「焼き方にもコツがあるんだよ。焼いてやるよ」

そう言って冷凍庫から新しいハンバーグを取り出して焼いてくれた。

ふっくらでジューシーで僕が焼いたのとは大違いで。

とても美味しい。

ちなみに、黒焦げのハンバーグも二人仲良く食べた。


あぁ。よく女性は彼氏や旦那さんの胃袋を掴むとか言うけれど、トオルにガッチリ胃袋を掴まれている。

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