雨が好き
菅野深怜
第1話 雨が好き
Side トオル
雨が好きだ。
それも、放課後学校帰りに突然降り出す雨が好きだ。
「徹、傘持って行きなさいよ。今日は雨が降りそうだから」
出がけに母さんが声をかけてくる。
「ミユキちゃんがいなかったら、いつもずぶぬれよ」
ミユキとは、美幸と書いてよしゆきという。
オレの幼馴染。
小さい頃はミユキと呼ばれるのを嫌っていたけど、今では対して気にしていないようで、うちの親も「ミユキちゃん」と呼んでいる。
オレは「ユキ」と呼んでいる。
玄関を開けると、ユキが立っていた。
「おはよう」
上目遣いにオレを見て言いにくそうにモジモジしている。
こんな時はたいてい数学の宿題。
ユキは理数系が苦手で数学の宿題はいつも悪戦苦闘している。
逆に文系はピカイチで、暗記物が得意だ。
数学の公式も簡単に覚えられそうなものだがそうではないらしい。
「数学なら学校着いたら教えてやる」
とたんに顔がパッと明るくなって、オレの後を付いてくる。
まるで尻尾を振って付いてくる子犬みたいで、可愛い。
放課後、天気予報通り雨が降ってきた。
ユキが一足先に傘をさして出ていった。
「雨?やだぁ、傘持ってない」
オレの隣の有希子が言う。
一応、オレの彼女ということになっている。
「貸すよ」
傘を有希子に渡すと雨の中に飛び出した。
「ユキ、入れて」
有無を言わせずユキの傘を持ち濡れるからとユキの肩を抱き寄せる。
自然とオレの肩にユキの頭がのる。
濡れないようにとユキの腕がオレの腰にまわされる。
雨の日だから出来ること。
誰にも何も言われず一つ傘で寄り添って歩ける。
だから、雨が好き。
Side ユキ
雨が好き。
それも、放課後学校帰りに突然降り出す雨が好き。
「ヤバイ。数学の宿題どうしょう」
僕は理数系が苦手。数字を見ると眠くなってしまう。
昨夜もプリントを開いたけど、結局、何一つできなかった。
こんな時は、困った時のトオル頼み。
近所に住むトオルは成績優秀。いつも学年で10位以内に入っている。
スポーツもそこそこ出来て、正義感が強く優しい。頼れるお兄さん的存在。
泣き虫の僕とは大違いだ。
「おはよう」
トオルが出てくるのを待って声をかける。
でも、なかなか言い出せない。
トオルが呆れたようにため息を付いて、
「数学なら学校に着いたら教えてやる」
と、言ってくれた。
僕が言い出せない事をさらりと言ってくれる。
僕が子犬なら尻尾を思い切り振ってトオルの後を付いて行くだろう。
放課後、天気予報通り雨が降ってきた。
トオルが彼女と昇降口に向かって歩いている。
なんだか淋しい。
みつからないように、外へ出た。
はずだった。
「ユキ!入れて」
トオルが駆けてくる。
「えっ、トオル?傘は?有希子は?」
「傘貸してきた。濡れるぞ」
そう言って肩を抱き寄せられた。
自然にトオルの肩に頭がのる。
トオルの腰に腕を回してもいいかな?
雨の日だから出来ること。
誰にも何も言われず一つ傘で二人寄り添い歩ける。
だから、雨が好き。
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