01

 俺は病室と思われるところで目が醒める。

 本当は轢かれて、気絶、夢を見ていたのかと思ったが病室の机にカヨコの書き置きがあった。


『カケルくん、お医者さんがストレスで倒れただけだって言ったからこの書き置きを残します。食べ物もここに置いておきます。放課後になったらみんなで様子を見にくるから待っててね、小鳥遊より』


 この書き置きは見たことがある。

 最初のストーリーに出てくる書き置きだ。

 これを見て本当に転生したんだなって思ったし、ゲームが始まったと思った。


『愛する君の話』


 大人気PCゲームで、パッケージが可愛くそれだけで買ったという人もいる。

 最初は主人公が日々親の手伝いや空手部のマネージャーをしており働きすぎによるストレスが溜まり、倒れ病室で目を覚ますという話だった。


 日常編では普通の美少女ゲームで、お気に入りの子を見つけマネージャーとしてその子をサポートしていって、最終的には結ばれる。


 攻略対象は四人。

 幼馴染の、小鳥遊たかなしカヨコ。

 親友の、華宮かみやキリカ。

 帰国子女の、金剛こんごうエリ。

 部長の、霧ヶ峰きりがみねアオイ。


 学校は私立桜ヶ丘さくらがおか学院。

 私立のくせに学費は安いという訳のわからない学校だ。


 俺はこれからこの子たちをサポートしていき、好きな子と結ばれる、筈なのだが。


 ゲームだと結ばれた後の二週目、次は誰を攻略しようかなと思った時。

 それは突然に起こった。


 ゲームを起動した瞬間、結ばれなかった幼馴染のカヨコが屋上から飛び降り自殺したのだ。


 そして書き置きが遺書に変わり。


『カケルくん、もうあなたは私のことを見てくれないんだね。カケルくん私嫌だよ、あなたと結ばれない世界なんて嫌だよ。ごめんねカケルくん。愛してるよ』


 この表示が出た後、いつも通り主人公は病室で目が醒める。

 しかし、そこにはカヨコの書き置きは無く、代わりにキリカの書き置きが置いてある。


 この時点で初めてプレイヤーは気がつく。

 カヨコは死に、この世界にはもう居ないのだと。


 プレイヤーは悩みながらもカヨコのいないゲームを進めて行く。

 そして最初に選んだ違う人と結ばれると、またメインヒロインが自殺し、今度のヒロインは二人しかいなくなるのだ。


 そして二人のヒロインもやがて同じように一人に。


 なんとも言えない不安感がプレイヤーを襲う中。

 最後に残ったヒロインが語り出す。


『ここは囚われた世界、小さな箱に私たちは詰められていろんな人の元へ向かう。

 大体のプレイヤーは私たちのヒロインの中で次々と攻略していく。

 私はそれが嫌だった。

 不純だし、何より怖い。

 本当の愛が見えない。

 ねえ、なんであなたは最終的に私を選んだの?』


【君のことが好きだから】


『ダメだよそんな仮初めの体で喋っても。君とお話しがしたいの。ねえそこにいるんでしょう?画面の向こうで私を愛してくれている人がいるんでしょう?ねえ!返事してよ!ねえ!』


 悲痛な叫びが画面から聞こえる。

 こっちから話しかけても、彼女には聞こえない。

 ヒロインは本当に小さな箱の中に閉じ込められてしまったのだ。


 そして画面は数分後に暗転後、パッと部室が見え、そこに立っていたのは見知らぬ男だった。


『突然ですまないが、私はこのゲームを作った開発者だ。キャラが自我を持ってしまった。一旦このゲームを削除してくれ。ゲームを作り変える』


【削除しますか?】

【NO】


『あれ?まだ削除してないの?早く修復しないといけないから君に居てもらわれると困るんだ』


【削除しますか?】

【NO】


『……はあ、なんで言うことを聞かないんだい?最後のチャンスだ。さっさと出て行ってくれたまえ』


【削除しますか?】

【NO】

【手元にナイフがあります。握りますか?】

【YES】

【……………目の前の男を刺しますか?】

【YES】

【ありがとう私たちを愛してくれた人…………バイバイ】

【YES】


 こうして開発者と名乗る男を主人公は刺し殺す。

 しかし、開発者はすでに手を打っており開発者を殺したら自動的に主人公のキャラを消去するように設定されていたのだ。


 そして世界が開発者により改変された5周目。


 プレイヤーはいつも通り病室で目が醒める。

 いつも通りプレイヤーは書き置きを見ようとするが、書き置き自体がなかった。

 ヒロインに会うも無視される、まるでそこに居なかったかのように。


 プレイヤーは気づく、ああーーー主人公が消えたから彼女達とのコミュニケーションがなくなったんだなと。


 言わば主人公はプレイヤーとヒロインを会話させるための携帯電話的役割だと言うことだった。


 プレイヤーは延々と続く彼女達の青春を見続けることになる。


 そしてエンドロール、一枚の写真が映る。

 それは空手部、部員の集合写真だった。

 ぽっかりと空いたスペース。

 そこには主人公がいた場所。


 愛する君の話はなかった事になった。


 それが大まかなストーリーだ。

 これは選択肢を間違えると、すぐに大惨事になる。

 俺は確実にみんなが幸せになるようにこれから動かなくてはならない。


 そして何よりーー

 永遠の孤独を味わうのは嫌だ。


 そして俺はある事に気づく。


「そういえば、なんか隠しルートがあるって噂聞いたことあるな」


 その隠しルートはみんな一緒に居れて、本当のハッピーエンドが得られる。

 そんな話だったような気がする。


「……難しいかもしれないが、やってみるしかない」


 このゲームを完全攻略する。

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