好きな美少女ゲームに転生したことは嬉しいんだけど、このゲームは勘弁してくれ。

へんなひと

プロローグ

 今月発売の新作ゲームを買った帰り道、俺は見てしまった。

 子供が道路に飛び出している。

 俺の足はなぜか勝手に動いた。


 助けたい、そんな気持ちはなかった筈だ。

 なぜ、俺はこんなにも必死に足を動かしている。

 なぜ、俺は道路に飛び出している。

 なぜ、俺は子供を突き飛ばした。



 なぜーーー俺は轢かれた。


 薄れゆく意識の中、ぼんやりと俺は思う。

 ああ、ごめんな母ちゃん。

 次はーーーできることなら美少女に生まれ変わりたいなあ。


 そこで、俺の意識はぷっつり途切れた筈だった。


 俺は朝に起きる、目覚めは最悪。

 何か悪い夢でも見てたみたいだ。

 なぜか俺が子供を助けて轢かれる夢、気分が悪くなる。


 俺は会社に行くために支度をしようとしたのだが、違和感がある。

 部屋が違う。

 俺はこんなに、本が乱雑した部屋に住んでいたのだろうか。

 俺は几帳面と言われる人間で、本は本棚に入れないと気が済まない。


 しかも、週刊誌の漫画ーー

 俺はこんなものは読まない、せいぜい本棚に入ってるのは美少女ゲームだけだ。

 しかし、本棚には美少女ゲームは入っておらず、小説やら漫画が積み上げられていた。


 部屋には大きな鏡がある。

 俺が映っている。

 間違いなく俺だ、しかし高校生時代の俺だった。


 一体、なんだこれは。

 俺は困惑する。


 若返っている?


 すると一階から声が聞こえて来た。


「おーい、カケル、カヨコちゃんが来てるぞ」

「…………カヨコ?」


 俺は声に従い一階に降りる。

 この家も見たことがない、俺の家は少し広いマンションだ。

 まず一軒家にいること自体がおかしい。


 声の主は一体誰だ、それも聞いたことがない声だった。

 なんなのだこれは一体。


「……呼んだ?」

「ああ、おはようカケル、早く支度しろお前の可愛い可愛い幼馴染が待ってるぞ」


 俺の目の前にいる中年の男が俺に幼馴染がいるとほざく。

 俺に幼馴染なんかいるものか、一体なんなんだこれは。


「……お前は一体?」

「は?なに言ってんだお前、漫画の読みすぎでおかしくなったのか?全く、母さんが居なくなって父さんが面倒見てやってんだから、あまり心配かけさせんなよー、さっ、カヨコちゃんが呼んでるぞ」


 どうやらこの男は父らしい。

 ふざけるな、俺の父親はもう数年前に歳で死んだ。

 お前が……俺の親父なわけがない…


 しかし、この男は本気でおれのことを心配してくれているみたいで、白髪が生え、顔の堀が深いイケオジだった。


 ……ふう、ようやく落ち着いて来た。

 さて、問題のカヨコとやらはーーー


 玄関のドアを開けると、目の前に立っている女の子がいる。

 …黒髪のショートヘアで赤いヘアピンをつけ、にっこりと俺の方を見ている。

 俺はこの女の子のことを知っていた。


『愛する君の話』


 これは俺が愛してやまない美少女ゲームのタイトル。

 そして、目の前に立っているこの美少女は小鳥遊たかなしカヨコ。

 メインヒロインの一人だった。


「おはよ!カケル!」


 俺は夢のことを思い出す。

 あの出来事は現実だったのだ。

 急に轢かれた時の事を鮮明に思い出し始めた。


 轢かれてしまった時の原因、を思い出す。


 めまいがする。

 ズキズキと頭が痛む。

 ーーーもしかして、俺は…


 転生…したのか?


 俺はばたりと倒れこむ。

 クソが、転生するんだったらもうちょっとマシなゲームに転生させてくれよ、神さま。

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