第5話 貴田 陽介(21)の場合



俺の名前は貴田 陽介(21)だJリーグの京都FCでプレーしているCB(センターバック)だ。

中学校の最初の頃は背が高いのでFWだった。先生が来てどこでもプレーが出来るようにとトレーニングさせられた。


TVで山田 一 (はじめ)がインタビューに出てた。やっぱりスペインは厳しいのかと思ってしまう。

はじめとたまは中学2年で全国大会得点王コンビとなりワールドユースU15に出てた。中学卒業後にユースにスカウトされ、転校していった。18歳になると二人とも海外移籍しデビューを果たしたU17の時に目をつけられたらしい。


俺は中学の最初の頃はポジションを取られたと思って悔しかった。中学卒業後はFW志望で部活に入り県大会の得点王になった。プロ入りを夢見てこの京都のユースへ転籍した。その時に俺はCBコンバートされた。


先生が監督になった初年度にこういった

"今の1年生は癖が無いからいいが、2,3年生はちょっと難しいかもしれない"

最初は何を言ってるのか解らなかったが、ビデオで蹴り方に癖があると教えて貰った。


フォームの矯正方法と基礎トレーニングの仕方、パスとDFをメインに技術的なことは教わった。

DFにコンバートするのかを先生に聞いたことがある

『いいやしない。全員にオールラウンダーになって欲しいからな。中学から変な癖は付けたくない』

ではなんで、パスやDFや基礎トレーニングが中心なのか?

『おいおい、どのポジションでもDFするし、パスもする。そして基礎が出来ない奴は大成しない』

じゃあ俺はプロになれるのか?

『はは、成れるよ。毎日ちゃんと基礎とトレーニングを忘れなければ5年後にプロになれる』


結局先生の言う通り俺はプロになれた。一番下手だったはずのパスが強みになった俺はCBとして今コートに立っている。

最近うちのチームはSBが手薄だ。その為か偶にコンバートされる。SBの時は上がれるし、シュートもできる。CBの時はセットプレーの時だけエリアに行ける。


この間鳴海先生から電話があった。

「良い感じで癖が抜けてるな。今年はディフェンダーで得点王狙えるんじゃないか」

「そんな訳ないじゃないですか。揶揄わないで下さいよ」

「いやいや、お前の所は3バックだからなリベロというのが出来るんだよ。出し所がなくて前に出た時に面白くなるさ」

「えーそうなんですか」

「まぁでも90m近く駆け上がるんだ。フィジカルトレーニングはしておけよ」


今でも中学の時に言われた先生のあの言葉が忘れられない

『オールラウンダーというのは器用貧乏に見られがちだが、監督に取って、何かあった時に使える替えが効かない選手なんだよ』


そんな監督にDFとして教わった事を思い出す。

・スライディングは基本的にしない。その殆どがファールとなるし、遅くタックルに行く事になる。

・DFに重心があるように、FWにも重心がある、FWにとって嫌なのは、左右どちらにも行ける重心を保つDFだ

・股下を怖がるな、よーいドンで振り向けば、それ程スピードでは負けない。走る相手のリズムで股へボールを動かす元FWならタイミングが解るはずだ。

・ボールの正面に足を置けば物理的に正面へは抜けないんだ。正面角度を考えてDFしろ。

・ボールを取った瞬間に逆サイドを見ろ。どこにパスを出すか見えるはずだ。


俺はまだまだ、若手には負けない。


たまに同僚にトレーニングの仕方を教えてくれと言われるが、絶対に教えない。だって鳴海が教えてくれた財産だからな。

おっと俺もU23だった。また、先生に会えると嬉しいぜ

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