第3話 出会いは突然
出会いは突然に……なんて、ちょっと思わせぶりなフレーズだけど、この場合は本のこと。
これまで集めた本を読むことにした僕は、どれから読もうか悩んでいた。
自分が好きなミステリー、SFを集めていたとはいえ、特段そちらの方面に詳しいわけでもなく、正直に言うとSFは学生のころに読んだきりで、読まなくなって久しかった。というより、しばらく本を読むことから遠ざかっていた時期があって、最近になって少しは本を読むようになったが、それでも年間数冊読めば良いという状態だった。
迷った末に、僕はちょうど目の前にあった、少し薄汚れた一冊の本を手に取った。その最初の作品、ジョン・ウインダム『トリフィドの日』(峯岸久訳/ハヤカワ・SF・シリーズ)を読んだとき、止まっていたぼくの時間が動き出したように思えた。
簡単にストーリーを紹介すると。
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五月七日の火曜日、地球が流星群の雲の中を通過した。新聞やラジオも「生涯に二度とない大スペクタル」と騒ぎたて、誰もが夜空を彩る緑色の閃光を見上げていた。ところが、あくる日、流星群を見た者は全員視力を失っていた。さらに人類に追い打ちをかけるように、全世界で栽培されていたトリフィドという植物が地中から根を抜き動きだし、人々に襲いかかってきた。視力を失い、なすすべもない人々……しかし幸いにも目の手術で流星群を見なかった主人公メイスンは、同じく災禍を逃れたわずかな人々を糾合し、世界を破滅から救うべく立ち上がった。
(トリフィドの日/ハヤカワ・SF・シリーズ より)
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というお話……ぼくが読んだハヤカワ版は、この時点では絶版状態になっていて(2018年現在未確認)、東京創元社から『トリフィド時代 食人植物の恐怖』(井上勇訳/創元SF文庫)の題で出版されているようなので、一応新刊で購入は可能なようだ。
副題に「食人植物の恐怖」なんて表記されていると、何だか昔のB級映画みたいで、トリフィドが暴れて人類を襲って喰らうパニックを描いた作品のような印象を受けるけれど、どちらかというとB級映画のノリとは真逆の重厚なテーマを扱った大作の匂い香る作品という読後の印象だった。
トリフィドはあくまで作品を彩るガジェットにすぎず、未曾有の事体に立たされたとき、人はどのように選択し決断するか……そのことを読者に問うている作品だと感じた。
安っぽいヒューマニズムを読者に押し付けない作者の姿勢にも好感が持てた。
◇
さて、SF魂に火がついてしまった僕は、この後もSF作品を読むことになる。
オラフ・ステープルトン『シリウス』(中村能三訳/ハヤカワ文庫SF)は、人間に匹敵する知能を持つ犬の物語。
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天才的生理学者トマス・トレローンにより創造された超牧羊犬。シリウスと名づけれたその犬は、人間に匹敵する知能と感受性を持っていた。しかし、その恐るべき創造は、皮肉にも彼の娘プラクシーを奇妙で悲劇的な運命へと突き落として行く。
(シリウス/ハヤカワ文庫SF より)
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プラクシーの恋人ロバートの視点で語られる本作品は、一部難解と評されている人もいるようだけれど、ぼくの感想はまったくの逆で非常に読みやすい作品と感じた。
読み進むにつれ、悲劇的結末を予感させるその物語は、派手な展開はなく若干の暗さを感じるが、文庫巻末の作品解説にもあるように、無駄のない丹念に書きこまれた作品という印象だった。現在ではいささか使い古されたテーマとも言えなくもないけれど、読了したぼくは感慨無量状態。
涙をためたかどうかは内緒です。
文庫のコピーライトには〈SIRIUS by Olaf Stapledon 1944〉と記されているので、70年以上前の作品になる。
そんな以前にこの作品を描いていることに、正直脱帽です。
どの作品も「機会があったら一読あれ」とおススメしたいところですが、『シリウス』に関しては少し入手困難な状況のようです。
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