第2話 僕の部屋は本がいっぱい

 一軒家の二階にうずたかく本が積まれた一室がある。


 本棚に収まりきらず、段ボール箱に入っている本も有るが、箱に収まりきらず口は開いたママ。その箱の上に、さらに箱詰めの本が積まれている。その一室が僕の部屋だ。


 これでも一部の本は処分して、ここに越してきた頃に比べれば、ましになったほうだ。自分では少なくなったな……などと幾分寂しい気持になるけれど、ときどき友人が訪ねてきて部屋に入るなり絶句しているところを見ると、世間一般からすると多い方なのかもしれないな……などと、ときどき自分を慰めている。

 ビブリオフィリアとはいかないまでも、少々その気は有るのかもしれない。


 古本屋になれなかった僕は、当然のごとく問題に直面した。これまで集めた本の処遇だ。僕は集めたすべての本を手元に置いておきたかった。が、住環境はそれを許さない。だってこれからも、欲しい本が有ったら買っちゃうだろうから本は増える一方……。6畳一間にも満たない僕の部屋では、すぐにスペースが無くなってしまう。

 将来確実に訪れるだろう恐ろしい光景が目に浮かんだ僕は、悩んだ末に一部の本を手放すことにした。


 古本屋を始めるにあたっては方向性を決めていた。自分が好きなミステリー、SFを中心に展開していこうと思っていた。

 ただ古本屋開業までの在庫数の目標を決めていたので、ミステリーやSF以外の本も若干ではあるけれど集めていた。なので手放すときは、ミステリーやSF以外の本を選べば良いだろうと、そのときは安易に考えていた。


 ところが、いざ処分と心を決めて古本を選別していると手が止まってしまう。辛いのだ。一生懸命に集めた古本を手放すなんて辛すぎる。しかし、古本が部屋を覆い尽くす、あの悪夢の光景に僕の部屋をする事はできない。僕は心を鬼にして古本を段ボール箱に詰めていった。


                  ◇


 箱に入れては出し、入れては出しを繰り返して一週間。やっとのことで箱詰めが終り、処分を待っている古本達を僕は眺めていた。

 

 「さて、どうやって処分しようか?」


 僕は我が古本達の行き先を思案した。“処分”といっても、可愛い古本達をゴミとして捨てるつもりはなく、良い引き取り手を探すつもりだった。とはいっても、その“良い引き取り手”のアテが有る訳でもない。

 思案の結果、僕は古本達を大型古書店へ持ち込むことにした。


 日頃ネット界隈で、いろいろな意味で“買い取り”が話題になっている大型古書店ではあったけれど、これまでに買い取りでは利用しことがなかったので、噂の真偽の確認もしたかった。それに一部の本には値段が付かないだろうとも考えていたので、僕は意を決し、自宅から車で20分ほどにある店舗へと向かった。


 噂の真偽は……というと、、、本当だった!!!?提示されたその値付けに僕は絶句し、これまでに自分が買い取ってきた金額との違いに驚いた。


 「僕はやはり古本屋には向かないな……」


と、自責せずにはいられなかった。

 

 これまでの楽しかった古本蒐集の日々を思い出し、カウンターに高く積まれた本達を僕は見つめた。不意に悲しい気持ちに襲われ、僕はやっとの思いで会計を済ませると、店を後にし車に向かった。


 外は雨が降り始めていた……。



                 ◇◆◇


 さて、なんだかドラマじみてしまったけれど、その後処分から免れた古本達……ただ眠らせておくにはもったいない。積読状態は何だか自分が納得できず、一生を懸けて読破する決意をした。

 なにやら大げさなと思うでしょうが……日頃あまり本を読まなかったボクにとっては、それくらいの覚悟は必要だった。

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