第6話
6話 退院
「フン、フン、フン、ハア!!」
俺は今何をしているのかだって?
そりゃあもちろん…!!
病室のベッドの上で腹筋をしているのさ。
筋トレが趣味の俺にはこの退屈で静かな時間は似合わない。。熱い男なのさ(ニヒルに一人で笑う。)
昨日は色々と忙しく疲れた1日だった。
運転手の親が謝罪に来たと思ったら、次は警察の事情聴取。(あんまり事故の事覚えて無いけど)
その後直ぐに勤務病院のお見舞いが来た。
上司と同僚達も来てくれて。。
柄にもなく嬉しくて泣きそうになってしまったぞこのやろー!
ただ、皆んな俺の元気な状態を見て なんか引きつった笑顔を見せていたな。多分夜勤明けとかで疲れていたんであろう。
それと、空耳だろうが「死ねば良かったのに…。」と小さく聴こえた様な気がしたが。まあ、気のせいだろう。
いつも俺に怒っている上司なんかは、「明日から仕事に出れます」と言ったら、ゆっくりしてていいんだぞ。無理をしたら傷口が開くからな。(お前がくると色々トラブルが起こるから面倒くさいだよ)と優しい言葉を掛けてもらえたな〜。涙がちょちょぎれるわ!
親や友達もいないから。それ以外は面会はなく、静かなもんだったな。
そんな事を考えながら筋トレしていたが、ある程度時間が経ったので、筋トレを一時中断して水分補給を行う。
その時だった!思い出してしまったのだ。冷や汗が止まらない。。恐怖の表情で俺の独り言が始まる。。。
「ああ!!大事な人に連絡するの忘れてたじゃないか!!!う〜。ヤバイよ、ヤバイよ…。車に撥ねられるより恐ろしい。それに、もう退院するとか言ったら…。
アイツは多分こう言うだろう。《ああ!?初めに私に連絡するのが普通だろうが!!今度会う時、分かってんだろうな!?スパーリングに付き合ってもらうからな!覚悟しとけよ!!》と言うに決まってる…。俺は、俺はどうしたら良いんだ!?俺の筋肉よ!!答えてくれ!…。。」
筋肉は小さく萎縮しておりブルブル震えているように見える。。
今直ぐに連絡した方がいいよな。。。?
まあ、この事実は知らないだろうから黙っとこうか?
「…………。」
「うーん。心配掛けたくないからという理由で言わんどこうっと!
そうだな。それがいい。俺は優しい男だからな。決して怖くなんて無いぞうう。。」
そう言いながら、子鹿のように足元ガクブル状態でこのままオシッコ
漏らしてしまうんじゃないか?って感じで辛うじて立っている。(少しはちびってるなこりゃ。。)
「良し!こんな時は筋トレして悪い事は忘れるにかぎる!!ワハハっゲホ!!」
「ーーーーーーーーーー。」
「はあ、はあ、はあ。良し!日課の筋トレと筋トレプラスαは終わりだな。」
そんなこんなで、筋トレが終わり汗を拭いていると扉をノックする音が聞こえる。
「コンコン。お食事をお持ちしました。失礼しますね」
女性の看護師だろう。食事を持って来てくれたのだな。
毎食、持って来てくれて食べるだけっていうのは本当にありがたい事だ。実際に患者になってじゃないと分からない。
普段は逆の立場だからな。当たり前に食事なども持って行ってたが、こんなに感謝されてるとは思っていなかったな。。。勉強になる。
だが、逆に忙しいからって雑な対応してたら凄く患者としては傷つくだろうな。ちょっとした行動や態度にも気をつけて仕事しないとな。。。
ストレスが溜まってそうな患者には俺の筋肉ダンスを披露してあげねばな。。。(これが一番大切だ!)
そんな事を考えながら返事をする。
「はい。どうぞ!入って大丈夫ですよ!」
そう言うと、看護師の女性が部屋に入ってくる。何か引きつった顔でこちらを見た後、直ぐに食事をテーブルに置く。
食事を置いた後、「また後で下膳しに来ますね。」と言ってそそくさと病室を出て行った。。。
「何か照れてるなあの看護師。。」
そうか!俺のこの素晴らしい筋肉を見て照れてたんだな。うん!そうに違いない!あの看護師の視線の角度からすると。。この右の外腹斜筋から腹直筋にかけての辺りだな。
「うん、うん、良く分かっているでは無いか!先程鍛えていた箇所を見るとは看護師の鑑だ。素晴らしい。
俺も見習わねばな。。。」
そう言った後、服を着てない事に気づき、慌てるように服を着る。
そんな事をしていると、さっきとは違う男の看護師がノックをして病室に入ってくる。
入って来たと思ったら、引きつった笑顔を見せ、直ぐに食事の下膳をして先程の女性看護師同様に、そそくさと病室を出て行ってしまった。。。
「皆んな恥ずかしがり屋さんだな?」
NSステーションからは「マジキモい。アイツ変態よね?」など看護師が言っていたとか、いないとか。。《神の声:マジキモいわ…。》
その後しばらく病室で過ごし、退院の時間がくる。
最後は、外まで何人かお見送りに来てくれた。なんと感動的な場面だ(泣き)
「短い間でしたが、色々お世話になりました。ありがとうございました。」
俺は深くお辞儀をしてかっこよく立ち去る。。。ように見えたが!?
「トイレ借りても良いですか?すいません。」
そそくさと病院のトイレ目指して早足で向かう。
そんな雅史を見て皆、唖然とした顔をしている…。
なかなか帰って来ない雅史。。。
「もう帰りましょうか。。変態なんて待たなくてもいいですよね先生?」
「そうだね。トイレ長そうだし。皆んな解散!」
看護師達は「サイテーあの変態。」と喋りながら散りじりになっていく。
先生と呼ばれた白衣の男は、突き出た大きなお腹をさすりながら。
ねっとりした笑顔を浮かべている。
しばらく雅史が立ち去った方を見て小さな声で呟く。
「長い付き合いになるからね。これからもよろしく。生贄さん…。ヒヒヒ…。」
「ううう。下痢だバカヤロー!!皆んな待っててくれよ〜!!」
そんな雅史の声が聞こえてくるのだった。。。。
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