パラレルワールドとタイムリープを記録する

2023年 7月1日 七夕の戯言


 先生と呼ばれる人種にろくな奴はいない件 〜


 クリスマスイヴに必ず連絡してくる先生がいた。

大晦日、正月と、べったり24時間拘束しやがるタチの悪い先生だった。今頃クリスマスのことを思い出す俺もアレだな。遅れてきた大祓か。


 めちゃくちゃな金遣いのせいで、そろそろ働かないとヤバイ。俺じゃねえぞ。びいだ。


 まあそんなで、夜も明けるかという3時48分にこんな愚痴をこぼす羽目になった。


 金銀財宝を掘り当てる餌に釣られた俺達は、金払いが良いはずだった2年ほどかの付き合いのクライアントの先生の仕事を受けた。2年前だったか。いや、もう4年か? 一発当てて、知る人ぞ知る小説家の先生。当初はわからなかった。一発当てた後、ほとんど鳴かず飛ばずだった理由。良い人そうに見え、実は計算高い性根が暴露されてるせいだとばかり。だが違った。実は背後に悪魔が憑いていた。面白い作品を作るため、悪魔に魂を売っちゃった、ってやつ。思ってたよりタチが悪い。


 まあ俺達は、なんで先生が、二発目を当てられないのか、分析する仕事を受けていたわけだったんだが。


 その先生の甘言に釣られ、漫画原作の仕事を受けた。書籍化やアニメ化されたら、権利を半分あげるから、と言う嘘っぱちに乗せられて。


 まあ、弁護士、正確には行政書士な訳だが、そんな大仰な専門家の先生の作成した書類を携えた、界隈ではちょっと名の知れた有名人が詐欺師とは、ご丁寧なんだが、詐欺師とはそういうもんだ。


 こんなことバラした俺達を、先生は名誉毀損で訴えることもできないだろう。なぜなら、全ての証拠はネット上に残っているからだ。俺達と先生は面識もなく、俺達は本名も明かしていない。だから契約書にサインしなかったのさ。


 悪魔の契約書。


 何が書いてあっても関係ない。サインしたという事実だけが重要になるからな。


 そんなのサインできないだろう。その通りになった。最初の見せ金以降は、死ぬまで無料でコキ使うつもりだったんだろう。とんでもない奴だ。


 一度くらいあなたと仕事をしてみたかったと自尊心をくすぐられたびいは、ペラペラと異世界のことをしゃべった。ペラペラどころか延々と幾日も幾日も。巫女がトランスに入るみたいに。お前、死ぬよ? ちゃんと寝たり食べたりしろよ。


 まあ教えてあげたい。奴隷のようになってる屍状態の新人の漫画家さん達に。骨の髄までしゃぶられるぞ。夢をちらつかせ、才能を奪い、廃人になるまで利用し、使い捨てられる。寝る暇、食う暇なく働かされてな。一人去れば、また一人。徐々に犠牲者が増えてるだろうから、そのうち、ここにリーチする被害者もいるだろ。その時は相談に乗るが。


 厚顔無恥な先生は、俺達の面白い冒険物語のエッセンスだけを欲しがった。千夜一夜物語みたいに、びいに延々と喋らせた。さめざめと泣きながら喋る、綺麗な女の寝物語みたいに。それはさぞ悲しかったことだろう、辛かったことだろうなどと、悪魔の甘い言葉に延々と乗せられて。 馬鹿なんじゃね?


 尻拭いをさせられるのはいつも俺。


 眠ることも食べることもできなくなってから、俺に振るなよ。1日も経たないうちに手口は分かったが。真面目で責任感があり、自分の作品を大切にするクリエイターさん達は皆、その罠にかかる。寝る暇も食べる暇もなくなる。24時間、気がつけばもう仕事は終わったから、と言われ、無給でこき使われる。


 はは。先生はいつか、ここにたどり着くだろうよ。すぐ側をうろうろしているだろう。減塩弁当でも食ってる丸い顔が思い浮かぶ。何でかわかる?


 俺がクライアントさんの本名を知らずに仕事を受けるとでも?どこの誰か、どんな経歴か、ネット上にないのは奇跡だが、俺は知ってる。ど田舎で@@の研究してた人だ。華麗な転職だな。あまりに後ろ暗いから、一応経歴を隠したか。無駄だよ。それでも、この詐欺師の先生をあんまり悪く言えないのは、馬鹿みたいにお人好しな女の相棒のせいだ。もう事務所の看板を書き換えさせて欲しいくらいだ。俺の事務所にしろよ、もう。


 漫画や文学の世界は狭い。堂々と名前を出した詐欺師なのだから、いつか墜落するだろう。俺はあっさりブロックしただけで、そのしょうもない@のような作品を垂れ流す先生とはすっぱり縁を切った。俺は常に安全地帯にしかいない。殴られようが、刺されようが、俺は死ぬのを厭わない笑顔だから、さぞかし相手は不気味だろうな。


 大抵の人間は死ぬのを嫌がる。さすがの俺も痛いのは困るから反撃する。でも、そろそろ俺も、一発必中を狙うようになったんだよ。もうめんどくさいから。


 人生、日々鍛錬。


 なんで思い出したかといえば、もうすぐ七夕だからだ。


 悪魔は性懲りも無く、昨年のクリスマスに連絡してきやがった。いや、連絡してきたのは悪魔じゃないな。悪魔の奴隷。俺がその先生をブロックしなかったのは、びいに懇願されたからだが、もう関係ない。


 びいは半分死にかけてるから、もう先生のことも話題にしない。俺が先生をブロックしたことを知っても、ブロックを解かない。先生から連絡が来ても話すことも、もうないからな。そして、金が尽きかけた今、初めて、作品の権利を掠めとり、共同著作を自分だけのものにし、首尾よく俺達や漫画家さん達を騙した先生のことを、この先、もっと恨むだろうよ。


 どんなに華やかで綺麗な女でも、一人孤独に、世を恨んで誰にも知られず、死んでいくんだな。想い人の名を呼びながら。


 悪いが俺には、誰を呼んでるのかまでは、聞こえねえ。



 世を恨むというのが、どんな感じか、初めてわかったか。何とも言えない苦い気持ちだ。早くに死にたがった清らかな女は、早く死ぬべきだったかもしれない。


 


 本当に今年、あいつの天寿は来るんだろうか。まだ死ぬには若すぎる。そんなに清らかでなくていいじゃないか。普通に生きて、長生きしろよ。その方がいい。


 だが、まるで計算されたみたいにきっちりと、二ヶ月前から、痛い痛いと言っている。

 

 俺がしつこく医者に行け、と言ってから30日。あまりに痛いので医者に行ったが、検査はしたくない、と言い張る。


 今年生き延びたら、来年。

来年生き延びたら、再来年。


 そこを越えたら、死なずに済むんだ。死なずに済むには、生まれ変わるしかないかもしれない。いったい誰に会いたいんだ? 元気になって会いに行けばいいじゃないか。


 昨年も、今年も笹には同じことが書いてあった。


 

 あの人に会いたいです 

             びい

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