8月23日 合気道やめたい
時系列で書けないため、書いたかどうかわからないが、びいが合気道を嫌がって困っていた。最初からびいは、わざわざ自分で「わたしは合気道したくないんです」と入会の時に、先生に会いに行き、泣きながら言っていたのだ。先生は「やりたくないのなら、やらなきゃいいじゃないか、別に強制されてるわけじゃないし」と言ったが、びいは泣きながらよく考えます、と帰っていった経緯があった。
まあ要するに俺が「絶対にお前のためになるから、合気道しろ」と強く勧めたのがあった。ほぼ、これは命令だと言わんばかりに。びいのお母さんを説き伏せたのも俺だった。
それでびいが、嫌々通っていたわけだが、一年が経ち、それなりになんとなく基本ができてくると、楽しかったみたいだし、何より、元気になってそれは正解だった。
ただびいと合わない若い女の子が入ってきた時に、怪しい雲行きになった。びいが何度かその子と顔を合わせ、何気無く挨拶がてらに「あの子のお母さんですか?」と言ったのが、その若い子の癇に障ったようだった。
「え? わたし独身なんですけど」
たまたま、同時期に入った中学生がいて、てっきりびいは、その子のお母さんで一緒に来ているという鈍臭い勘違いをした。そのことがきっかけで、気が強いその子はびいのことが気に入らないらしかった。
直接の原因は他にあるのだが、割愛する。俺のせいでもあるから。ものすごく気の強いその子は、俺やびいの存在が目障りなようだった。先輩になる俺たちのことが目障りというのも不思議なのだが、負けず嫌いなんだろう。俺たちがやってる稽古を指差し、あれはどうやるんですか? とか言うような子だった。俺達にできることが自分にはできないのが嫌なんだろう。バリバリの初心者のくせにな。びいが道着を嫌がって、いつまでもトレーニングウェアだったので、それもあったのかもしれない。道着を着ていないせいで、自分と歴がそう変わらない初心者とみなされたんだろう。俺は、剣道着や柔道着がどこかにあったはず、と思うせいで、わざわざ合気道の道着を買うのが馬鹿らしかった。正直、柔道着とほぼ同じようなもんだから。
その子が入ってきたせいで、びいは合気道を嫌がるようになった。気の強いその子と組みたくない、と。とにかく嫌だと言った。俺が組んでやるからいいじゃん、と言ったが、びいは、岬くん余計トラブル呼ぶもん……と言った。確かに若い女、とても良い匂いがして、ははは。
伊藤先生から、抱きつくなと言われるくらいだったので、いや、それは誤解だ。
別に……抱きついてるわけじゃないぞ(苦笑)。傍目から抱きついてるように見えるかもしれないが、そういう技だからな。
まあ、正直空気は微妙だった。全員男なら、その子と組みたいオーラが出るからな。気が強いとなると、組み伏せてやるという気持ちが起こるが、それは自然だろう。
まあそんなでびいは、とにかく嫌だ嫌だと言うようになった。びいは気が強い子は元々苦手だ。特に、上手で気が強いなら良いが、下手で気が強い。そんなやつと組みたくないだろ。
俺がうっかりとそう言うことを口にして、先輩から「お前の方が下手なのに、俺を下手だと言うとは何事か」と怒られた。ものすごくくだらないが、コンプレックスがあると、そう言うふうに聞こえてしまうらしい。先輩を名指しで下手だと言ったわけじゃない。
見てすぐ、誰々よりこの人は上手とか、下手とか、すぐわかるじゃん。それを認めないというのは、馬鹿なんじゃねえのか。序列というのは、すぐにできてしまう。そんなの当たり前だろう。誰が上手なのか下手なのか、見たらすぐにわかるんだから。
合気道の歴に関わらず、筋がいい人、上手い人、パッと見て、才能のあるなしは案外隠せない。俺も軟弱な方だし、決して上手ではないが。先輩は俺に「お前は俺より下手だろう。組んでて下手だと思ったよ」と言ったが、そんなことは問題ではない。俺にとって重要なのは「いかにして早く上達するか、強くなるか」というところだけなので、この先輩と俺とに共通しているのは「体の硬さ」なんだと見切っていた。何とかして体を柔らかくするべきだった。すっかり遠ざかってしまっていたヨガを再開するべきなんだろう。
合気道の上手い下手、そんな当たり前のことも認めることができない器の小さな男が俺に突っかかってきて、先輩だから俺も大人しくするべきだったんだろうが、組んでいて「そうでなく、その技はここをこうすると思いますが」と言ってしまったがために、目に見えて険悪になった。
俺はそんなことに全くこだわらないが、相手は俺に敵意を持ち、とても組みにくいため、結構うんざりしていた。間違っていても指摘してはいけない。日本人の先輩には。
俺は海外はリベラルだったんだな、と思い返していた。つまんねーよ。いつまでも下手なままでいろよ。下手なだけならいいが、実害がある。組みにくいんだよ。
まあ、上手な人にとったら俺もそうだろう。よくわかったよ。
俺も決して上手くないが、この先輩と一回組んで、自分のどこが下手なのか、ものすごくよくわかった。俺もこの先輩と似ているやり方をやっていたことを知った。だから先生は組ませなかったんだな。
そういう意味で、だから先生が最近、俺も上達してきたし、そろそろこの先輩と組ませてみよう、としていると気づいたが、やりにくいことに変わりはなかった。とにかく力を抜くことを覚えないといけないというのが明らかになった。相手がそうでないから。反面教師。
合気道は柔道とは違う。柔道のように襟の取り合いなどはない。乱取りで相手が戸惑うのも、俺が柔道と同じ感覚で相手に対峙するせいだとそろそろ気付き始めた。乱取りはなかなかさせてもらえなくなったが、それは俺のことを危ないと感じる先生の意向だった。他の師範の先生だけの時は乱取りさせてもらう。
俺が投げられるばっかりだったら、危険じゃないでしょう。
俺はそう言ったが、いやダメだ、と言われた。かかってこられ方によったら、思わず危険な投げ方をしてしまうかもしれない、ということだった。師範の先生は、自分くらい上手であっても俺に怪我させるかもしれないことを見越して、怖がっていたんだろうな。俺は怪我するくらいにやらないと上達しませんよ、と言ったが。
まあそれでも、俺も、頭から落とされて半身不随は避けたいから、その件については確かになと思った。先生方は70代だから、もはやそこまで激しい稽古はもうやらない。70歳過ぎてる先生は、本当に軽く交わして投げるだけでも正直疲れるんだろう。
高校生とか教えるの嫌なんだよ、パワーでやってこられるからな、と先生がボソリと言った。
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