8月6日 本当なのか、人口削減の噂?

 びいも俺も、自分たちのことが精一杯で、世間から離れていた。日本に住むつもりなど毛頭なかったのに、もう海外に帰れなくなって、もうすぐ2年か?


 びいが戦記の人に心奪われて、リミッターが外れたみたいに、いろんなものが飛んできた時、書いたとは思うが、確か剣で斬った。今から思えばあんなもので斬れるのは霊だからだよ。2019年の6月頃だった。時差があるにもかかわらず、真昼に構わず飛んでくるというのは、驚きだったが。


 確かあの時は、戦記の人自身にも、どうするべきなのか国際電話で尋ねたはずだった。言っとくがほとんどメールで仕事していただけの間柄なのに、そんな話が通じるのはおかしな話だった。


 日本に一時帰国したのは同じ年の10月30日だった。奇しくもハロウィーンじゃないか?その後、ダイヤモンドプリンセス号の事件、コロナが起こり、帰るタイミングを失い、今に至るわけだが。


 俺はびいの酷い鬱状態に付き合わされて、すっかり他のことはほったらかしになっていた。自分たちも2020年の春頃は、奇妙な体調不良だったしな。これがコロナなのか?と。あの時は真剣にそう思ってた。


 今になり、接種券が届き始めたのを見て、俺たちはいくら何でもおかしいと思い始めた。なぜなら、10年前に聞いたシナリオ通りになっているから。テレビを見ない俺達は、接種券が届き始め、大規模接種が始まり始めたのを、たまたま美術館に出かけて、知った。美術館の入っていたビルの上が大規模接種会場になっていたから。


 俺もびいも、日本のテレビや新聞を20年近くまともに見ていない。原発事故の頃から、海外からの目線で、全てがおかしいと思って独自に調べていた。そしてコロナの件も、10年前に聞いていた噂を慌ててソースを探した。一瞬でソースは出てきた。世界経済フォーラムで、まったく同じシナリオをシンクタンクが提示していた。英文の計画書だった。


 俺たちが聞いていた噂というのは、この計画書の中身だった。だが、何で削除しないんだろう。このPDFファイル、そのままじゃねーか。今の状況をそのまま「人口削減するにはこういう計画が有効」って。未知の病原菌の蔓延、ワクチンで人口の調整をする、と書いてあった。そもそも、世界の人口は増えすぎているから、と。こんなサイコパスなこと、誰が考えて実行するんだよ。そんなことができるわけない。聞いた当時はそう思った。だが、現実には、今まさにその現実の只中にいる。嘘みたいな話だ。


 陰謀論とかでなく、現実に存在する団体の提出した書類。このことについて、どう解釈するべきか。単なる偶然?偶然の一致?


 20年ほど前に、大手ゼネコンのトップに限りなく近い人が言っていた。地球環境を考えたら、人類というのは滅びるのが良いという話になってしまう、と。まさにその通り、目線は結局、同じだ。


 慌てて、メッセンジャーRNAを使ったワクチンの仕組みについて調べた。これって、まったく安全性は未知数じゃないか。日本の国立大学の元医学部名誉教授はその仕組みをかなり詳しいながら、素人にもわかるように解説した動画を作っていた。そして、その教授はPCR検査法も開発した人なのだ。


 これくらいの情報で既に十分だった。俺達はほとんど社会と関係のないところで生活しているため、人にあまり会うこともない。公共の交通機関を使ったのは、この2年のコロナ下の間、数えるほどしかない。ワクチンを打つ意味はほとんどない。そもそも人に会うことがあまりないのだから。


 ふと俺が思ったのは、びいの旦那はこのことを知っていて、びいを日本に送り返したのではないか、ということだった。悪いようにはしない、黙って言うことを聞いて欲しい、と言っていた。それがお互いのためになるから、と。


 今となっては……その言葉の意味が、まるっきり別の意味にに聞こえてくる。びいが何を思っているのかは知らないが、俺は、裏の裏の裏を読み、黙りこくった。


 これは厳しい。正直、何もかも、自分達の手の届かない世界で、勝手に物事が動いているということなんじゃないのか。自分の意思ではどうすることもできない。


 もう向こうの家には戻れないかもしれない、と観念した理由は、もう一つあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る