8月3日 10年前に聞いたワクチンの話


 王子くんとのやりとりはそれきりだった。びいは王子くんに縁切りされたことについて、ショックを受け、2〜3日、本当に元気がなかった。


 「縁切ってことはないんじゃない?」


 俺は軽くそう言ったが、びいは自分が戦記の人のことを未だに想っていることについて、王子くんはそのことを決して認めないと知ってて、嘆き悲しむような悲嘆の表情で胸がムカムカするらしかった。気持ち悪い、と。


「暑さからくる夏バテの胸焼けだよ……」


 びいはほっとくとすぐにシクシク、意味もなく泣きだすため、俺は、王子くんに連絡入れさせたのが遅かったな、と後悔していた。東京から戻った後、一度も連絡してなかったから、その間、あいつのところに行ったんじゃない?と、王子くんはきっと、心配してたに違いなかった。まあ、勘がいいからね、王子くんは。


 びいと王子くんはある意味、双子のようだった。あ〜あ。


 またびいが、しくしく脈絡なく泣くようになり、俺もイライラがマックスになりそうになった。おかげでびいのお母さんから「最近、岬くん怖い、前にあった余裕がなくなった気がする」とか言われるに至ってしまった。


 3歩進んで、5歩下がるを繰り返されると、本当に鬱陶しくなってくる。流石の俺も、これはもう大変すぎる、と合気道でなく、蹴りがある空手や拳法、俺だけ習いに行こうかなと思ったほどだった。木刀の素振りは初めていたが、居合の素振り、構えと剣道は全く違うことがわかり、俺たちが長く思い込んでいた素振りのやり方では、実戦で全く通用しないことがよくわかった。


 びいは良くなったかと思えば、また悪くなる。合気道の道場でもそれは同じで、無難にこなしてると思うと、波乱が来た。


 俺もびいも、ワクチンのことについては慌てて調べた。接種券が高齢者に向けて、届き始めたことを聞いたから。まさかという思いだった。

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