6月18日 悪縁切り報告とコロナ枠鎮と。
中国、広東省で希ガスのニュースが入った。メルトダウンか?
久しぶりにガイガーカウンターをオンにした。確かに線量が微妙に高い。0.23マクロシーベルト/h ?
時折そんな数値が出た。ほぼ初めて見る。欧州でさえ、0.2を超える瞬間を見ることは数度しかこれまでなかった。日本の雨樋の下が0.2だったが、それも2013年のことだからな。
まあ、福島だと場所によっては2とか、3とか出るんだろう。それに比べたら、なんて言ってるのは感覚が麻痺してるせいだ。俺たちの計算が合っているなら、びいの寿命はあと2〜3年の予定だから、放射能はもうあまり関係ない。
残された時間で、後どれくらい、今回この体で生きた意味が見つけられるかというところ。のんびり何もしなかった時間が長くなりすぎたな。最後、逃げ惑うだけに終わりそうだ。
急に話が飛ぶ状態になるが、前回の話を俺はもうチェックしない。正直、あちこち同時並行している世界を、それぞれ俺が紡ぐのは物理的に無理。
びいの鬱は少しはましかもしれない。泣いてどうすることもできないような状態ではない。例の異世界の小説家の先生に、最後に渡したいという漫画タイトルロゴは、デザイナーさんから「日々のドカタ作業で忙しく、クリエイティブな仕事にまで手が回らない」と断られた。まあ、あの人は聡明な人だから、何で降りた仕事に無料で自腹を切ってわざわざタイトルロゴをプレゼントするんだ? と、思ったに違いなかった。俺も同意見。
びいは目が痛くてPCを見つめることができないままに、先生にご挨拶することなく、フェードアウトした形になったことをとても気に病んでいた。書いたか忘れたが、とにかく、魔物に使役される形になり、俺がお札を投げつけるが如くに「悪縁切り」を小説家の先生に宣言した。
先生はむしろキョトンとしていたが、それでいい。
先生にとって、魔物にとって、俺たちがそんなふうに去ることは得でしかない。これまでの成果物の権利を全て放棄するから、完全に縁を切らせてくれ、2度と来世も含めて、再び出会うことはないと宣言させてもらう、これで完全な縁切りだ、と。
びいにも2度と、先生に関わらせない、俺がそうさせると言いきった。
先生はのんびりした口調で「来世のことまでは約束できませんが」と言った。言ったというか、ネットを通してだから、チャットのやりとりだ。
「なぜそんなに怒ったんですか?」
先生は暢気に言ったが、怒ってなどいない。俺は、いつ立ち去るのが良いのか、常にタイミングを見ていただけだ。魔物がバンバン飛んでくるというのを、実際に経験するということが、どういうことなのか。
俺やびいの頭がおかしいと指摘される前に、俺はさっさとこの状況から立ち去りたかった。
魔物は上手に「欲望」を想起させ、そこにつけ込む。
一緒にいればいるほど、まずいことになる。
俺は初めて、ニーチェが「深淵を覗くときは注意しろ」と言った意味を肌で感じていた。俺ら自身が魔物に取り込まれる。
怪物に対峙すると、自らが怪物にならざるを得ない。漫画やアニメ業界の渦巻く欲望、一発当てたらすごいことになるという、そういうドロドロの欲は、比較的、清廉潔白な方の俺達にもまるで瘴気のような毒気の腐海を歩かせた。
そして、チームとしては、全く体を成さなかった。
古くから世話になっている先生に、この件を相談したところ、俺たちがこの小説家の先生に関わり続けるなら、縁切りだと言われたのも大きかった。
俺はゲームが面白く、丁々発止のやり取りを卓球のように面白がっていたが、それどころじゃない。
びいは温かい裸の犬のようにぐったりと横たわって、虫の息だった。小説家の先生を助けないと、と言っていたが、俺は「お前、何言ってんだよ、バカなんじゃねーの」と。
「盗人に追い銭は止めろ」
それで、完全に縁を切った。びいはそれでも、約束した通りにロゴの納品は……としつこかった。それで、1ヶ月以上経ち、デザイナーさんから「すいません、立て込んでいて、頂いたラフにまだ取り掛かってません」と言われ、とうとう諦めたようだった。
デザイナーさんは「納品理由がなくなったので」とこの仕事のキャンセル理由として報告した。ちゃんと分かってるじゃねーか。
王子様をどう助けるのか、その幾つかの方法は、俺も膝を打った。小説家の先生に土下座して教えてもらった方法。
俺が土下座するなんて、考えられねーだろ。自分もだ。
それでいて、悪縁切りするというのも、俺は自分で苦笑したが、小説家の先生はもう十分、びいと俺から欲しいものを持っていっただろう。その証拠に小説家の先生は「興味深い話が聞けました。これまでありがとうございました」と。
まあ、1000倍くらいに薄めて、十分長い間使えるネタができただろうからな。
びいはとても悲しんでいたが、お前、出会う人出会う人を助けるとかできねーし、それよりお前は自分のことをまず助けろ。
この件で明らかになったのは、俺もびいも「具体的なこと」が苦手ということだった。そして「地道な継続作業」とか。
そういう意味では勉強になったじゃないか。モチベーションを高く持たないと小説家の先生の要求についていけないからな。
それでも断ざるを得なかったのは、鏡を見ればわかる。
鏡を見て死相が出る。
小説家の先生の方も、体調不良だと言っていたが、そりゃあそうだろう。闇に住むとそうなる。そうなるが、俺もびいも、ひっそりと涼しい闇にホッとしていたというのがある。
まあ、余暇のようなものだ。
それにしても、その間にいよいよ世の中はコロナのワクチン接種が始まるなどで、俺たちが異世界にいた間に、大きく流れが変わっていた。
数日までに、世話になっていた先生にびいが自分で電話した。びいは「岬くんが全部、はっきりと悪縁切りをしてくれて……」と説明し、自分は小説家の先生に挨拶もしなかったことについて、今も気持ちが心残りだと言った。
俺が側で聞いていて「お前、縁を勝手に繋いだら、俺はもうお前を見捨てる」と低い声で呟いた。俺はそういう脅迫は嫌いだが、正直鬱陶しい。
魔物を切るために、余分に成果をあっちにあげたんだ、また関わったら、また何か取られるぞ。
自分から殴られに行く馬鹿な漫才師じゃあるまいし。
俺はもう付き合っていられないから「お前、俺もそろそろ、お前の世話ばっかりしていられないんだけど」と何度もびいに言った。
それで本当に諦めたようだった。良かった。
先生の方は「ゲームの中の異世界の世界が見えた」と言っていたから、まさにそのものだった。そうです、そうなんです、めんどくせえ。
俺は王子様を助ける方法を教えてもらった恩があるから、これでもう全てチャラだと。貸し借り「なし」だと。
かと言って、王子様を実際に助けられるかどうかは別問題だった。今生ではおそらく無理だろう。美学という意味で、犯罪者も辞さない覚悟なら別かもしれないが、そうなるくらいなら、俺も王子様も死を選ぶ。
カッコ悪く生きるくらいなら、特に王子様の方は、そうだろ。
俺の方は大概「カッコ悪い生き方してる」と自分のことを思ったが。
それにしてもびいは恋愛してないとダメなようだな。萎れた花のようで、そして、すぐに側にいる人に頼ろうとするから。
そんなこんなするうちに、ワクチン接種が進み、気がついたときは、高齢者の周りの人間のほとんどが、ワクチンを打っている状態になって、俺もびいも慌てた。2〜3日でワクチンが危ない科学的根拠を集めた。
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