5月25日 王子様を助ける方法
2021年 5月25日
何故に俺が、日付を書くようにしてるか知ってるか? カクヨムには日付が残らない。もしも編集し直したりしたら消えてしまう。だから残しているのさ。それくらい目まぐるしく、俺たちの状況は変わっていた。
収入のアテは一切ない状態で。3月だったか、2月だったか、びいが突然に電話を受けた話はしたっけ? してないかもしれねえ。誰からって、まあ、それは聞かないでくれ。
「もう本当にダメだ、あと一週間で20万円……でないと廃業になる」
「ガスが止まった。電気ももうすぐ止まる。水道も」
「後になってからではもう遅い。食べるものさえない」
そう言われたら、どうするね?
びいは蒼白になり、慌てふためくばかりだったが、悲しいかな、たかだか20万円の貯金も自分で持ってはいなかった。嘘みたいな話だろうな?
本当に呑気というのか、なんというのか、あったらあっただけ使ってしまう。それなあ、責められるべきものでもないのは、海外だと、結構バカンスで、みんなそんな感じだからな。嘘みたいに聞こえるかもしれないが、すれ違った日本人女性に「わたし、結婚決めたばかりなんですけど、相手が貯金持ってないことに驚いたんです。それって普通なんですか?」と聞かれたことがあるくらいだから。
まあ、福祉が充実している国だと、そんなものかもしれない。貯金などなくとも、何とかなるという感覚があるからな。庶民の話。
びいは何とかして仕事を探そうと、古い古い昔のツテなどを頼ろうとしたが「何で?ご主人や家族は?」と聞かれて「何も聞かないで。誰も頼れない」と黙り込んだ。
まあ振った男に頼っても無理だって。いくら社長だからと言っても、頼り甲斐がない男だから振ったんじゃねーの?
びいにはそういう感覚はなかっただろうが、そういう時に頼りになるような男なら、びいと付き合っててもおかしくないから。ダメダメなやつだから、ご縁がないままに来たんだろうに。
そういうわけで蒼白な顔をしていたびいは、「仕事、何か仕事ありませんか」と言いながら、カウントダウンのような一週間を過ごした。そのタイミングで、先生からの仕事が来たわけだ。それは本当に偶然だった。すごくね?
まあ、全然、足りないし、無意味だったし、びいが何とかできたのは、とにかく食料品をかき集めて、宅急便で送ることくらいだった。
それにしてもだな、お前はお母ちゃんか?
俺は呆れたが、びいは涙を流さんばかりだった。そういうタイミングで先生と、とにかく仕事をし始めて、実際にびいはずっと泣いていた。どんな仕事でもしますというような精神状態だな。俺はゾッとした。お前ね、そんなだから、これまでの過去生、ああいう目に遭ってるわけよ。わかってるの?
びいは目の前の異世界を延々と先生にメッセージで語り続ける。わたしにできますことは、目の前にある水晶に映る世界をただただ降ろしてくるだけです、と先生に断って。朝も昼も夜も、語り続けた。
もちろんそうなる前に、俺たちはしつこいくらいに確認した。原作が共同著作物になることと、その契約について。著作権と著作隣接権の扱いに、印税に。具体的には、漫画の原作を先生と一緒に作っていく仕事だった。
まあその話はいい。無駄になってしまったからな。異世界チートが起こった話をここで書くつもりはない。糾弾は全く目的じゃない。
びいはとにかく、愛する王子様を助けたいと、必死でそのことを先生に訴えた。先生なら異世界を旅する羅針盤を持っている。先生は、何のことかわからない、と言った。俺は説明した。
俺たちだと異世界を無目的で歩き回るだけだ、と。先生がこの冒険者パーティに参加してくれたら、俺たちはやっと、目的を持って世界を歩けるんだ、と。
びいが先生に尋ねた。自分が見える風景を語る。先生はどう思われますか、わたし達、ここで何をしているんでしょう?なんでここに来たんでしょう?
先生は「何って……別に何も考えてません。何も見えないし」と答えた。俺の記憶は確かじゃないかもな。先生とやりとりしていたのは、ずっとびいだった。
それってさ、びいは先生のことが好きなのかと俺は、よくわからないままに思った。
真面目によくわからない。
先生は、主人公が霞むくらいに、王子様、王子様と言っている、と言ってたがな。
俺の目から見たら、先生のおかげで、びいはやっと辛い恋を忘れてくれるのかな、と期待していた。別にびいが先生とどう、とかじゃなくだな。
それがこんな流れになっていくとは。
うまく書けないが、結局のところ、びいと先生はお互いを傷つけ合う関係のようだった。俺のせい?
いや、別に俺のせいじゃないと思うが。
俺も先生に、王子様をどう助けるのか、その方法については相談した。
王子様に取り憑いている魔物を退治しようとすると、王子様ごと殺してしまうことになるからな。
シロアリのように、王子様と魔物はすでに一体化していた。ソードで一突きすれば、王子様も死んでしまう。助けようがなく、俺はずっと、昨年から、どうするべきなのかわからずにいた。目の当たりにした話はしたっけ?
どういうことなのか、俺も気持ち的に、苦虫を噛み潰したような気分だった。だって、どうすることもできねーじゃん。もっと力ある人でないと無理なんじゃね?
俺は簡易の、これが神棚代わりかな? という場所を、横目で見ながら思った。自分も陰陽師として仕事してたはずなのに、肝心のことは記憶が全く。意味ねーよ。
現実世界の王子様はまあ、びいのことを忘れてたとばかり思ったが、そんなふうに火の車にいて、そして異世界の王子様には魔物が巣食っていた。いや、異世界もこの世界も同じだったのかもしれないが。先生と話していると、先生が見るもので、今度、全体がもっとよくわかるようになる。俺は軽いため息をついた。自分たちの思った通りじゃないか。
俺もびいも、正直、既に訳のわからない世界にいた。異世界で王子様を助ければ、この世界の王子様も助かるというのは、無意識で俺達はそう考えていたということだな。先生がそこに入ると、何もかもがはっきりしてしまう。
だから俺たちは先生といて助かるのと同時に、今度は先生と一緒にいることが原因で、バンバン飛んでくる魔物に並行していた。それで本当に、これはマズすぎる、無理だと感じ始めた。シャレにならない。先生にはわからないらしいが、これでは先生も王子様と同じようにそのうちに乗っ取られて一体化の道を辿るかもしれない。
びいはしつこく、そうならないように先生に何度も同じ話を繰り返し話したが、先生は何のことなのか全くわからないようだった。結局のところ、魔物にとりつかれるのは本人の心がけというか、そういや先生は、前もそのようなことを言っていたかもしれないが、むしろ魔物を利用しようとしている節があった。
いやそれは愚かなことだ。
悪魔との取引なんて、愚か以外の何物でもないからな。相手よりも自分の方が上手だなんて、その慢心は既に命の
それでも、拝み倒して先生から、王子様を殺さずに魔物を倒す方法を聞き出したんだ。
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