とにかく美しいものを見ろ


 このタロット占い師に相談している途中に、びいの顔色があまりに優れないため、久しぶりにI先生に連絡取るように、俺は促した。


 珍しくびいは、俺に頼らずに一人で数日頑張ってたというのに……。ちょっと雲行きが怪しくなり、俺は慌てて、そうびいに勧めた。


 前に東京から先生に電話をかけた時は、俺だったからな。あれは、戦記の人に会った帰りで、本当にややこしく、先生は何時間も電話に付き合ってくれた。


 いやはや、申し訳ない。今回も明け方近くまで……善意にすがるというのも、度を超えている。


 I先生はあいかわらず元気そうだった。びいは時々泣きながら、何かを話していたが、いやはや、泣くなよ。


 俺の目から見たら、泣いたら男が優しくしてくれる、とでも思ってるように見えてしまう。いや、びいはそんなこと考える子じゃないけど、俺の目からみたら、もうね……。でもびいと一緒にいたら、誰がいようが、いまいが、いつもいつも泣いているから。


 これね、お前、こんだけ泣いてたらもう、泣いてる状態に慣れちゃうよ。逆に言えば、それだけ病んでるんだろうけど、この状態はやはり異常だというしかないよ。

 もう限界に近いのかもな。旦那もお手上げになったのは、何も言わずにしくしく泣くからじゃないか……こっちにしたら、何で泣いているのかわからない地縛霊に出会ったみたいになるから。


 びい自身が「自分が地縛霊になったみたいです……」と訴えている。まあ、もしかしたら、「何か憑いてる」ということかもしれないが、祓うこともできない。それは、びい自体、その地縛霊を何とかしてあげたい気持ちがあるからだろうな。戦記の人とハッピーエンドになれたら良かったのにね。


 まあでも現実はそんなにうまくいかない。地縛霊は地縛霊、びいはびいと、切り離したほうがいいと思うね。


 霊媒体質と自覚したことはないだろうが、今の状態はそうとしか思えない。なんか憑いてるよ、きっと。ツインレイとか、ソウルメイトとか、俺はあんまりそういうのはどうでもいいが、ツインレイだったら、相手ももうちょっとなんかあるでしょ。


 でも、一緒に死んだとかあれば、仕方ないのかもしれない。一緒に死ぬと、確実にまた出会うよね。だから仕方ないね。どこか短絡的な直情的な恋に身を任せて、一緒に死んだことあるなら、また会っても普通かもしれない。


 俺はそんなことをぼんやり考えていたが、I先生のアドバイスはもっともっと具体的だった。だいたい、前世を信じる人自体が少ない。タロット占い師も I先生も、前世=これは病気だな、という認識に違いなかった。I先生は、とにかく美しいものを作れ、美しいものを見聞きして、とにかく数をこなすしかない、と。俺もそれに賛成だった。


 こんなね、訳のわからないアートは見たい人、いないから。見て綺麗だなあ、と感じるものを作っていくほうが、自分のためにも人のためにもなるよ。そうしなさい。


 びいは優しすぎるからこんなことになってるんじゃ? と、ふとそんな考えが頭をかすめた。前へ進もうと思ったら、切り捨てないと進めない時もあるよ。あと、俺にも言えることだけど、甘く優しくしてあげると、「本人のためにならない」こともある。それ、微妙だよね……。びいと一緒にいて思ったのは、もうちょっと自分も他人も「頑張ってみよう」というような、背伸びが足りないんじゃない?


 まあ、憑かれる人って優しい人が多いと思うんだけどね。


 自分はこんなもんじゃない、という負けず嫌いな何かが足りないんだよ、びいには。もうちょっと「怒り」を奮起のエネルギーにするなど、できないかな? できないか……。


 びいももうちょっとしっかりしてた面もあったと思うんだけどね……。その良い資質が今、出てこない。さくらちゃんは沈黙しているし、これが恋に溺れるというやつだね……。まあ、本当に死なないように注意だけして、何とか時間が経って、気持ちが冷めてくれるのを待つしかないね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る