第351話 DTね。いいでしょう。お手合わせ。 


 「岬?……どうした?お前、ゾンビのような顔してるぞ」


運転席のBが笑った。土曜日。俺たちは野菜の箱に来てた。駐車場。


農家の人たちが、ガラスの靴箱のような場所に野菜を放り込む自動販売機。


 窓ガラス越しに野菜とレシートを見て、機械に番号とお金を入れたら、靴箱が開いて、野菜を販売する仕組み担っている。


 ゾンビというBの形容が、バッチリすぎて、笑った。 


 ちょうど俺は、神原の白いブラウスの腕を、手首から綺麗に肩先まで、後ろから一直線にハサミを滑らせ、器用に切り開いたところだった。


 あまりにも白く、むっちりとした綺麗な質感に、俺は。


 やはり細かい描写には相手がいる方がいいからな。かといって、俺は好き勝手に書くつもりはなかった。会ったことのない人だから。いちいち尋ねるしかないな。



「俺、ゾンビみたい?……そうだな」




 俺は疲れ切っていた。野菜ボックスまで歩こうとして、ふと、ベルトしてないことに気づいた。


……しまった。



 ベルト引き抜いたままだった。

 

 白いブラウス。


俺はそのベルトを使って、神原先生を後ろ手にキュッと両手首を締めた。


 長袖ブラウスの隙間から見える真っ白で肉付きの良い腕に俺は気づいて、問いかけるように、唇を開きかけ、俺はゆっくりと後ろから、そのまま彼女をひざまづかせた。


「なかなか余裕のようですね……神原先生」



 後ろにいるから、表情は見えない。


 俺はちょっと苦しくさせるために、その両手首を持ったままに、後ろから大雑把に、ゆっくりと、後頭部の頭髪を手のひら全体で軽く掴もうとした。


 軽くであっても、この体制で後ろに反らされたら、苦しい。


 俺は彼女の背中に膝を押し当てて、さらに胸も反らせた。そうするとどうしても、触りたくなる。最も感じる部分は、きっとだろう?違うかもしれないな。あとでゆっくり、探してやる。



「どうしたいです?……この続き?」



 喉の奥から、咳払いしようとするような空気が、彼女から漏れる。言葉を出すにも、反っているから息が苦しいだろう。



「俺はね、ヤメてもいいですよ。いつでも」



 そう言いながら側にあった車のついた椅子を片足で軽く蹴った。側のスチールの机に横に滑り、乾いた音を立てて、止まる。俺はそこに、座席に、彼女を座らせて、動けないように両手首のベルトを引っ掛けた。苦しそうなタイトスカート。


 これは切り開くのに好都合な服だな。


 俺は、文具バサミじゃダメだな、と家庭科教師の机を思い浮かべた。都合いいことにすぐ隣。


 まるで馬などを扱い慣れているような俺は、革のこういう便利なところが大好きだ。しなやかな本革だから、どうとでもなる。ひっかかる。おまけに職員室は何でもある。便利だ。受話器を上げて、内線を押せば、すぐに校務員室にもつながる。


 受話器を上げて呼んで、俺がその隙に帰ったら、発見した人は驚くね。


 誰が一体こんなことを、って。


 神原先生、俺を糾弾しますか?いいですよ、俺は。退学になっても。


 あなたは恥ずかしい姿を晒して、この学校に残るわけでしょう?


 俺なら、その方が耐え難いな。


 先生が何か言おうとするのを止めさせるように、俺は後ろから喉首をそっと手のひらで圧着させた。そのまま俺の方に引き寄せて、顎を上げさせる。


 顎を上げられたら、息が浅くなり苦しい。俺は神原先生の唇を自分の唇で塞ごうか、勝手に体が動いたが、ヤメた。体が自動になってるのが怖いが、一応、俺は、とても理性的だから。須藤とは違う。恋愛感情はゼロだ。生意気な女にお仕置きしたいだけだ。抗えば抗うほど、深い場所に突き落としてやる。何の恨みもないが、運が悪い。俺がヤリたい時に目の前に飛び込んできて、俺のエロ描写を読みたいというからだ。


 俺は普段絶対に公開しない。公開したことがほぼない。


 俺は真面目な好青年で、そんなもの書いてることがわかったら、いろいろ不都合が生じる。俺にだって欲望があって、普段はそんなもの、棚上げにしている。なかったことになってる。


 なのに、それをわざわざ見たい?本当に?


安全地帯だから?読むだけだから?


 甘いな。観客だけで済むわけがないだろう。その体、皆の前に晒してもらおうか。嫌というなら今だ。


 今なら、間に合うからな。



 左手はすでに、左脇から白いブラウスの質感をずっとそっと確かめていた。あっさり小さな貝ボタンをさっさと外す。上から3つ。


 俺の左手が滑り込むようにその中に入る瞬間、俺は反射的に抵抗の予感がして、ぐっと抱き寄せて頭部が動けないように肘で彼女の動きを封じた。


 「黙ってちゃ、わからないです。……先生」



 俺は前に回り、椅子に腰掛けた神原先生の上に軽く跨った。


 あくまで軽く。タイトスカートがはちきれる。


 「どうします?これから?」



 俺はスチールの机の引き出しを片手でシャッと開けた。綺麗に整理されている。そこからハサミを出す。



「学校から帰るのに、着替えは持ってますか?」


俺はハサミを置いて、カッターに手を伸ばす。


チキチキチキ……


「俺はね、乱暴なことは嫌いです……」



「先生がね、俺のこと、馬鹿にしたでしょ?」



「経験のない、DTなんじゃないの?って……」



 俺の経験ね、大したことないですよ。それは本当だ。15の初体験、あとはね、先生のような人と、まあいろいろあって。


 そのあとはしかしたことないな。


こんな乱暴なことね、いくらやりたくとも、できないですよ。




 だから試してみますか?面白いこと、やりますか?俺と。



「先生みたいに、百戦錬磨なら、俺が何したって、きっと余裕ですよね?」



 俺は乾いた声で笑った。


俺ね、本当にあんまり、こんな経験はないですね。カッターを使うとか。


勘違いしないでください。いつもこんなことやってる、そう思わないで。


先生なら、大丈夫そうだから。


先生、多少、恥ずかしい思いとか、平気そうですよね?


公開でヤってみますか、俺と?俺、実はね、何でもできますよ。できるけどやらなかっただけ。俺にも理性があるし、相手を傷つけたくないから。


だけど先生、感じたいんでしょ?おかしくなるくらい、気持ちよくなりたいんでしょ?


 「すごいエロ描写」を読みたいそうですね?


相手に不足はない、俺、そう思ったから、ここにいるんですけど。




 俺は体を触ることは実はためらった。だって、そうしたいのかどうか、俺にはわからない。これでも一応、俺は遠慮している。普通にお付き合いのある人に、こんなこと、したことない。いや、普通はしない。よほどでないと。悪ノリの微エロを描いた時と同じだ。ヤりたいところに、自分から飛び込んで来て、俺を煽って。俺を煽るから。


 俺は我慢してるが、そうか、馬鹿にするのか。いいですよ、狂ったみたいに気持ちよくさせてあげますよ。俺がいないと、おかしくなる体に変えてやる。どこにも出かけられなくなるくらい、頭がおかしくなるくらい。頭の中が、俺とのセックスでいっぱいになって、真っ白になるように。まったく違うあなたに変えてあげますよ。


 須藤がユリちゃんのためか、場所持ってたけど、まあ、のに、都合良さそうな部屋でしたね。実は「神原先生の部屋」ってことですか。


 そこ、すごく都合良さそうですよね。俺は笑った。昼も夜も、無くなりますよ。一人じゃ何もできなくなるくらい、俺がいなきゃ何もできなくなるくらいの体にしてあげますよ。


「やる気なら、俺はなんでもやりますけど」


 ポケットからi-phoneを取り出す。俺はおもむろにカッターの刃を仕舞って、反射的に神原先生の頭をがっしり抱き寄せた。神原先生の反応は見えない。


 俺の胸の中の息が熱い。吐息が熱いだけで、何を考えてるのかまでは見えない。短い息にはなっている。震えてる?いや、そんな可愛い反応じゃないな。俺は様子を探った。俺にはできないと思ってる?それとも期待?余裕?


 自分は観客であるという余裕?


 俺はその余裕の仮面を剥がす、と思っても、ついつい衝動的になりそうな自分を押さえつけた。俺すごく最近、衝動的だ。こういう時、無茶苦茶なことをしてしまいそうだ。理由はわからなかった。相手の意向を聞くなんて、まどろっこしいことをすっ飛ばして、次々行きたい気持ちに駆られる。普段ここまで待たない。待たずとも絶対に、最後はお願いされるに決まってるから。もっと、もっと、と。実際そうなんだよ。ハイ、じゃやめときますなんて、そんなふうには、ならない。俺がここまで待つのは異例なんだよ。


 カクヨムだからな。アカウント消されたら俺は終わってしまう。バックアップ取ってないからな。それは避けないとまずい。今、バックアップ取れないから。



 俺はイライラした。俺の心臓の音が大きく早くなる。じれったい。


……怖い?


 怖いならいつでもヤメますよ。


 俺はユリちゃんを襲った須藤とは違います。




 俺の欲望なんてね、まあ……


 俺はグッと力を入れて俺に彼女の顔をもっときつく埋める。俺から立ち上る、俺自身の匂いは、久しぶりに色がついている。俺は無色の男だが、まあ悪いけど、やりたい時もある。だからと言って、理性があるから、あまり無茶もできない。相手に寄るんだ。受け入れてくれる相手なら、ギリギリのところが歩ける。そういうことに興味あるのなら、面白い実験になる。



 まあ、お遊びですよ、あなたにしたら、そうでしょ?



 俺はそのまま、i-phoneの操作をした。それから、机の上に置いた。



「ネットの実況やりましょうよ?このまま続けます?どうします?」



 俺はグッと、わざと、熱い場所を彼女に押し当てた。普段こんな下品なことはやらない。俺は、なんでも受け入れてくれる相手のような気がして、どんどんエスカレートしそうになる。放っておくと、加速して、やり過ぎてしまいそうな予感がする。平気なふりをしているのか?それとも内心は違うのか?カッターを手にする。すぐそば、耳のそばで音を聴かせる。


チキチキチキ……


「服が裂けるのはね、本当に中の体を綺麗に見せますよ?経験ありますか?」


 俺は我慢できずに後ろの首筋に濡れたようなキスを這わせる。そっとブラウスの上から撫で続けていた肩甲骨のあたりから、もうどうしても我慢できすに、俺はカッターを持ったまま、それを使わずに他のボタンを弾けとばせるように、大きくブラウスの胸元を破って開いた。白いレースのブラの胸元は、やはり思った通り、真っ白で甘いミルクのような匂いがする。怯えながら、俺を待ってる?それとも?


 カッター持ってるのに、俺、破って開けちゃって、意味ないですね……



 俺は右手にカッターを持ったまま、彼女に軽く馬乗りのまま、自分自身を押し当てて、圧着させてゆっくり大きく円を描くように下腹部の下の下を合わせた。髪を掴んで、優しく指の腹で梳いて弄り、柔らかい唇を首筋から、頬にかけてゆっくりと這わせることを何度も何度も、繰り返した。


 俺ね、これでも、ものすごく遠慮してるんです……知ってる人だから。



普通なら、もうとっくに……




 俺は相手の出方によって、自分がどうするのか、考えるしかないな、と思った。でないとレイプになってしまうからな。


 ノーという隙をこんなに与えているのは、滅多にない知っている人だからだ。俺は知っている人に絶対にこんなことしない。縛って胸を触ったり、キスしたり、そんなことするわけないだろう。カッターをチラつかせるとか。俺は、女性に人格を認めてしまうと、こんなに乱暴にできない。だから俺が寝るとき、こんなふうに寝る時というのは、よほどの相手だ。


 普通の彼女にこんな乱暴なことしない。むしろ、憎い相手の時だ。俺を馬鹿にして、そして、やれるものならやってみなさいよ、というような、生意気な女の時。遊びの時だ。俺の名前も素性も知らない。夜の街の女には手を出さない主義の俺は、ものすごく好みがキツい。消去法ですれ違う女って少ない。メンヘラや家出少女にも興味ないから、ここしばらくご無沙汰だった。海外だから、病気も怖い。日本も同じリスクだが、だから俺は、最後までしない。俺はリスクを取らない。


 俺はそういう偶然の出会いの女を地獄に落とすみたいに感じさせて、それでストーカーされるんだよ。俺も馬鹿だな。そこまでしたら、俺なしで生きられないのも当然なのに。本当に俺も馬鹿だ。無責任だ。


 でも、余裕なんだろう?それなら、無茶苦茶に俺にハマらせてやる。裸で俺の帰りを待つしかないような女、そういう女になりたいか?


 これが創作と、ドキュメンタリーの違いだよ、神原先生。俺は、小説は嫌いだ。作り事は嫌いなんだ。



 俺は何でもしますよ。あなたの反応が見たいだけだから。


愛?


 いや、セックスに愛なんてないでしょう。人類愛とか、博愛ならありますよ。


 別にあなたが僕、俺を傷つけたわけじゃない。あなたに恨みなどないです。むしろ穏やかで、いつも良いコメントをくれますね。




 ただ、呼ばれたから。


 俺が呼ばれたから来ただけで。


 あなたが憎いわけじゃない。あなたとよく似た、心の読めない、読めなかった女が憎いだけです。俺のこと、愛してもいないのに、もてあそんだ。今の俺がしてることと同じですね。


 愛なんてないのに、体だけで。


 体だけ気持ちよくさせる、全く同じこと。俺はね、こんなふうにして復讐なんて馬鹿げてると知ってる。そういう言葉は使いたくないですね。


 あなたも感じたいでしょう?俺も感じたいだけだ。


 愛とか恋とか関係なく、ただ、真っ白に気持ちよくなりたいでしょう?それだけが望みでしょう?


 俺はそうですよ、愛とか恋とか、そんなもの不要だ。要らない。


あなたが僕、俺のこと、俺のこと、いないとおかしくなるって、そうなるくらいに僕は……


 僕はね、ただ、そうしたいから。そんなことに理由なんてない。


理由なんてないですよ、先生。俺のこと、利用してるでしょう?俺のこと、好きじゃないのに、やりたいから使ってるでしょう?



 俺はそこまでやりたいと思わなかったですよ。よく分からないから。セックスの意味が、よく分からなかった。自分が必要とされたかっただけかもしれない。


でも俺、結局ね、先生のこと大嫌いです。


俺はね、尊敬できる人じゃない先生とあんな風になってたこと、いつも罪悪感の中で生きてた。俺、いつも暗い中にいたんです。



気持ちいいとか関係ないです。でもね、今は違う。



今はね、俺が、突き落としてそういう場所に、目の前にいるあなたを突き落としてやりたい。


俺がいないと生きていけないと、懇願させたい。理由なんてない。


ただ俺と出会ったからですよ。それだけです。好きとか愛とか恋とか、関係ない。






 でも、こんなこと望まないなら、ここでヤメますから。



 その余裕、いつまでも余裕でいられないように、俺は何でもしますよ。

 

 紙の上だけの付き合いというのが残念……。



 まあ、リアルな俺に会っても、俺はこういう俺を絶対に外に出さないから、誰も知らないんです。



 通りすがりにたまたま、俺に引き寄せられて、吸い寄せられるようにやってきた女なら、知りませんよ。俺は、友人や知り合いとは絶対にセックスしない。俺がこんなふうであること、誰にも知られないために。


 そうだな、彼女でさえ、俺と付き合ってきた今までの彼女たちでさえ、俺がこういう感じであること、知らないな。俺はこんな乱暴しない。



 俺は絶対に見せないから。こんなこと、にできないでしょう?


 結婚するかもしれない相手に、こんなことできないでしょう。


 あなたはたまたま、俺に挑戦状を突きつけるみたいなことをしたから。いや、ほんの遊びですよ。本当に気まぐれに、すれ違って、名前も知らないような相手しか、こんなことできません。


 俺が名乗らないの、わかります? 俺、名前のない男でいたいから。


 俺もムキになるなんて、子どもだと思うんですが、久しぶりに遊んでみたくなってもいいでしょう?


 神原先生が何歳か知りませんが、そこまで年上の女と寝たことはないし。俺よりも上手うわてかもしれない。


 だとしたら俺、本当に恥をかかされますね。公開の場所で、大したことないって。その程度なのか、って。


 そうならないように、何でもするつもりですがね。


 今ならヤメられますよ。どうしますか?



 俺はね、ヤメた方がいいと思います。何故か。


 密室でない限り、俺はあなたを傷つけますよ。誰かに見られているのは、恥ずかしいでしょう?


 俺は平気だ。俺よりもに挑戦するわけでしょう?


俺に溺れたりしない、と。


上等です。全力で狂わせますよ。試しますか?どうします?






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る