第310話 俺の問題点?


 近況ノートに俺に対する鋭い指摘が、また立て続けに届いていた。


 俺が書いたものについてだが、発表しないでやめとくんじゃない?と。いきなりそう言われても、わからないと思うが、俺はギクッとした。俺ね、今コンテストに出すやつを全く別で書いてると宣言して、それで。


 でもなんで、わかったんだろう。まるで予言されたみたいだよ。俺、コンテストなんて意味ないな、と思いつつあって、ほぼ書き上げても、実はもう、どうでもいい、と、この2〜3日は思ってたんだ。


 あなた、好きな人に告白しないのも、書いたもの人に見せないのも、同じ問題から派生してるわよね。


 そういう指摘。ものすごく鋭い。


 俺は自分の作品を人に見せるのは嫌な主義だった。でも、人に見せないと何も始まらないから、作ったものを人に見せるのだが、そんなことしなくとも、やっていけるのなら、作るのだけでいい。


 これはお姉さんからも指摘があったが、「なぜ?」と。それね、根源的な問題。俺はね、作ったものがどうとか結構どうでもいい。


山があるから登るんだ、そういう感覚に近い。


 作りたいから作るだけだ。理由などない。書きたいから書くだけ、理由なんてない。


 だから人に見せるとか見せないとか、見せなくて済むならそうしたい。評価などいらないし、求めてもいない。


 まあ、なんだろう、衝動的なエネルギーがずっと続く感じが、その「はけ口」がいるだけだ。そしてそれ、他人が介在すると、ややこしいじゃないか。


 俺はだから、チームで何か作るのは嫌いじゃない、むしろ好きだが、建設的な目標が必ずいる場合、それは、金が絡むから、もちろん沿わせないといけないよな、結果を。金を出してくれるクライアントの意向が重要なわけで。


 俺、そこはわかんない。うまくできるのかどうか。そのクライアントに寄るってことになる。


 結局のところ、俺は「俺のポリシーに合ってる」ことしかできない。

そういうことなんだよな。まあ。


 俺のことを「それじゃもったいない」と言ってくれる人には案外出会う。


俺はそれをすごく嬉しくは思う。でも、何を目指す、となった時に、俺のポリシーに矛盾することって、結局はできない。結果を出すというのが、ストレートに「本当に全ての人にとって役に立って喜ばれる」っていうようなことは少ないからな。世の中のバランスというのは、そうそう単純じゃないから。


 それでも俺は、すごく世俗らしい。隣のねーちゃんが言ってた。日本から来て、どこでもいいから泊めてよ、というから、「B、お前信じられないよ、お前が床に寝ろ」と俺は言ったが、Bが「嫌、俺とお前が床で?無理」と、結局、床にマットレス引いて、おねーちゃんを泊めてあげた時のことだった。


 俺が何気なく、海が遠いこの国で「プールついた家、便利だから、将来ゲットしますよ」と言ったら、そのおねーちゃんは「何それ、最低」と言った。


 おねーちゃんにしてみたら、そんな金があるなら、発展途上国の子供を助けろ、と言う。実際オネーチャンは多分、高校生くらいでアジアに井戸掘りのボランティアくらいには行ってそうだった。俺その話は、詳しく聞いてないから知らねーが、とにかくそういうタイプ。


 俺はその時、家にプールあるくらい、いいじゃん、と思ったが、とにかく、まあ、世界の落差は激しい。


 よく考えたら、Jさんの息子さんちにも、Bのお兄さん夫婦の別荘にも普通にプールがある。ごく普通。


 俺ねえ、世界というのは、一個の国にいたら、ほんと常識がわかんないもんだよ、と言いたかった。俺はあまりアジアには行かないが、基本的にこの世は不平等、そのことを否定しても何も始まらないわけで、個人ができることをできるようにするしかないが、生きるスケールまで小さくすることはない。


 真面目にコツコツ日本でしてるだけじゃ、家にプールは結構、難しいんじゃないか。まあ難しくはないかもしれないが、みんなと同じじゃないと生きにくい国なんて、それだけで息がつまる。


 もっと自由でいいじゃないか。金がなかったら、井戸を掘ることもできねえぞ。真面目にコツコツ働いて、妻子養いながら、アジアに井戸を掘りに行く人もいるかもしれないが、余った金がないと社会貢献だってできない。おねーちゃんが何を言いたいのか、俺にはわからなかったが、ポンと金を寄付するビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスは、ちまちまサラリーマンしてもらった月給を寄付してるわけじゃねえよ。


 俺は、大きなことをしたければ、ちっちゃい器じゃ無理なんだよ、とその時、何となく思った。俺は別に器が大きいなんて一度も思ったことがないし、むしろ小心で臆病だ。だが、人は驚くが、俺は自由とセットになって初めて、自分の能力を発揮できる。俺は無軌道だが、曲がったことはできない性質だ。


 もし誰かが助けてくれるなら、俺は俺のポリシーに合ったやり方で、「思いもかけないようなことができる」と自分で思っていた。それはずっとだ。


 それが何なのかは、わからなかったが、俺の中身に興味を持ってくれる人がいて、仕事をくれるなら、俺はとにかくやってみるだろう。不器用ではあっても。


 結局のところ、そういう意味で世界は金では動かない。金で買えるものはたかが知れている。俺のポリシーは絶対に金では曲がらない。俺がダメだと感じることは絶対にしない。


 だから就職できないんだよな、俺。こんな俺でも、使い途はあると思うんだが、なかなかこれというものが見つからないままここまで来て、今さら、何でどうやって、ここから抜け出られるか、わからなくなった状態でどんどん時は過ぎていた。


 小さくまとまるな。


 俺はずっとそう思って生きてきて、それで良いのだと今も思ってる。俺を嘘つき呼ばわりしたやつはたくさんいたが、今では、ある程度の結果を出したから、もちろんぐうの音も出ない。でもここから先はさらに険しいほぼ道などない道だった。


 俺はヘリをチャーターする金もなく、ここで死ぬのかな、とブリザードの中を考えて、洞窟に潜んで、今は、遥か彼方の青空に先が見えるのに、どう動けばいいのか、分からなかった。




 

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