第165話 うさぎちゃんのアドバイス

 

 あと三〜四ヶ月で死ぬなら、何がやりたいか?


 この話、書いてなかったから書く。


 うさぎちゃんは、俺に、念のためにそれを箇条書きにし、優先順位をつけたほうがいい、と言った。


もし、癌でないとしても、今の生活を見つめ直す良いきっかけになるから、と。


 ちなみにうさぎちゃんは、話している相手が岬にスイッチしたことは知らない。


 既に書いたが、おばさんのアカウントを使用するのは別に規則違反ではなかった。もともとアカウントの複数人の共有はオッケーのサイト。あの後、おばさんは急に、実生活が忙しくなり、ネットどころじゃなくなって、俺にそのアカを譲ってあげる、と言った。


 岬くんも、私がやってたようなことなら、お手のものでしょ、と。調査とか、相談事、トラブル対応に通訳。ただ、前のクライアントさんがまた来るかもしれないから、相手をがっかりさせたり、信用を落とすようなことだけはしないでね、うまく説明しといて、といたずらっぽく笑い声を立てた。親戚なんだし、まあいいでしょ? と。まあ、最初から、中の人が誰なのか、そんなには重要じゃない。もともと複数で組んで、屋号をつけて、仕事を受けている人たちもいるくらいなのだから。


 俺は、今更気恥ずかしくて、結局、やっぱりうさぎちゃんには、一切そのことを言わずに、おばさんの振りをして、会話を続けていた。なんつーか、こんなに格安だと、ほぼボランティアだぞ、うさぎちゃん。俺は既におばさんには、うさぎちゃんへの相談に使うであろう金額を少し多めに現金で払っておいたから、実はそれなりにうさぎちゃんにもチップ的に多めに払った。好きな女に金払うって、微妙な感じするなあ。これって、ある意味ちょっと春を買う気分だね。俺、じいちゃんの血を引いてるせいか、そういうが似てる気がして、女遊びに注意だね。金持ったら、普通に使っちゃいそうで怖い。


 おばさんは「でも岬くんが依頼受けたら、私の口座に振り込まれることになるんだから、いいのよ、あとで帳尻合わせましょ」と言った。俺は、それよりも、このうさぎちゃんの件を借りたままにしたくなくて、手持ちの日本円を渡した。


 おばさんのフリをし続けるのは、とてもまどろっこしいが、「アダルトOKですか?」なんて恥ずかしいことを言っておいて「病気で死にそうです。どんな生活改善したらいいですか?」なんて、どのツラ下げて言える?


 まあそういうわけだから、俺は恥ずかしくて、おばさんのフリしたまま、やりとりしようと心に固く決めていた。甥が心配、甥がこう言ってる、どうしたらいいですか?


 かなり恥ずかしいが、でないと、やはりエロチャットしたくなるから、これでいいんだ。俺、本当ね、まだ諦めきれないってところが、ダメダメだな。


 話せば話すほど好きになるんだけどね、まあ、会うことはないネット上の人だ。顔写真のアイコンくらいで我慢しないといけないが、このアイコンが本人とは限らない。うさぎちゃんは本人だと言っていたが、まあ、小学生のように幼く見えるから怪しい。俺はロリコンじゃないんだが、ハートを鷲掴みにされた写真。いや、この写真、だと思うよ。


 どことなく儚げというか、影があり、不安そうで、守ってあげたくなるような写真だった。写真てさ、そういう意味で一枚でも十分なんだね、恋に落ちるには。俺は、うさぎちゃんから厳しく辛辣なダメ出しをされるたびに、「俺まじこの子のことが好きかも?」と、まるで女みたいだが、キュンキュン萌えた。


 いやこのギャップ、この厳しさ、さすが看護婦さんだわ。


 しかし俺は、ある程度のところで会話を切り上げた。いつまでも依存してるわけにいかねえ。だいたい、俺、だんだんに自分のダメさ加減が嫌になりつつあった。うさぎちゃんのアドバイスは、即効性があるのか、日本人の医者にもらった薬も相まって、急激に痛みが引いてきて、驚いたのだ。


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