第130話 イベント会場を回る


 予測した通りのイベント会場。


 自分が主催するなら大変だが、俺なら絶対来ない。客に1ユーロ払わせる価値ねえ。タダでも素通りだぞ。


 ジョーも旅行王子もうさぎちゃんも、さらっと見て、暑いから外行くね、と言った。俺、日本人である以上、なんかすごくカッコ悪い。ジョーはうさぎちゃんと話があると思った俺は、いいよ俺、ここにちょっと残って回るから、後から合流する、と言った。


 回るも何も、よくわかってるんだけど俺。


 旅行王子は、じゃ、僕はこれで、と言った。


 俺、日本イベント?くだらないからやめとけ、というべきだったかとホゾを噛んだ。もっと大きなイベントで日本企業が出店しているものならともかく、日本だけのイベントなんて、ほぼ見たって仕方ないぞ。俺はさすがにそこまで言わなかったのは、ジョーがわざわざ、誘ってくれたからだ。


 日本の文化やいろんなことで売りになることはあっても、テーマが「日本だけ」だと玉石混淆だ。それこそ「フリマレベル」のアソシエーションのものまで出店している。古本出したりって、外国人に全くわかんねーだろ、それじゃ。


 俺は、俺が海外で日本のもの、本、食品などが欲しくて、フリマで買い物したければ、ここに来るのは正解、と思ったが、1ユーロって、ふざけてると思ったのと、わざわざ中国人たちが見に来るほどのものでもない、と悔しく思った。


 オリンピックの布石かもしれないが、少子化が進む日本に実は未来はない。


 日本の高校生にでも、金を出し、「文化祭模擬店」みたいにしたほうがマシなんじゃないか。俺は心の中で毒づいた。企業出展で、海外に進出しているの、最近見かけるのは、ウィスキーくらいだ。


 日本の家電は優秀なはずなのに、全くこの国じゃ韓国製品に押されていた。ダメなんじゃないか、日本。


 まだ、カメラやレンズ、精密機械の世界では日本は優秀で、俺はそのことは誇りに思っていて、ただ、外から日本の没落を眺めるのは辛い。NYのBの従兄弟が、いや、そんなことはない、日本企業は良い、まだまだ大丈夫と言っていたが、子どもたちに賢くなってもらわないと未来がない。


 俺は日本の子供が、甘えてみるのを見るたびに、兄貴もそうかもしれないが、おらあ、しっかりしろ、と、そういう気分になった。特に男。


 海外の人間と比べると、日本人はシャイすぎて話にならない。英語ぐらい普通に話せ。中国人でも、韓国人でも、タイ人でも、ベトナム人でも、英語は普通に話すぞ。日本人だけが、英語が話せないと有名だった。


 俺の英語もブロークンだが、日本人だけがダメだ、という評判は、当たっているだけに厳しい。日本人だけが英語を話せないのは、日本から出るという選択が一般的でないせいだ。他の国、特に小さな国、貧しい国の人間は、活路を見出すために、バンバン海外に出ている。それを見ると、日本の場合、狭い島国なのに、そういう活力のようなものが全く感じられない。よし俺も海外で一旗揚げてやる、というようなバイタリティに欠けるのが日本人。


 まあ俺も、成功できてないから、人のことは到底、言えねえ。他国に移ったほうがいいかもな。この国の中で、外国人の俺が、食い込んでいくのは、難しいことだと、よくよくわかった。


 俺はふと足を止めた。


 ガラス+漆の器。


 漆の漆黒が金箔で光ってる。漆の上にガラス。珍しいな。


 綺麗でもない地味な感じで、色黒の小柄なおねーさんが、モグモグと何か食べながら「あ、それね、漆をガラスでサンドイッチしている平皿なんですよ〜」と俺に言った。

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